研究趣旨 (concept)


   人間が過去の事物に関心を寄せるひとつの理由は、不確か な現代を理解し、未来を予測するための何らかの材料が過去の事物に隠されて いると信じるためである。そして研究者は文学、歴史学、仏教学、言語学など さまざまな領域を通して過去を扱う。ここで使用される古文献の多くは、どの 領域においても一度は文献学的手法を用いて研究資料として利用可能な程度の テキスト化 (転写、翻訳、注記、校訂など) がおこなわれる。だが、そのよう な研究資料の多くは個々の研究者によって作成されたままで、一般に公開され ることは少ない。
   本研究では、ウイグル語、ヒッタイト語、古ロシア語など のユーラシア古語テキストに対して、文献学的な検討を加え直したうえで、整 備されたかたちで公開し、各領域を通して共有できる資料を作成することを目 ざす。文献の種類によってはテキストの提出が非常に困難な作業であり、それ 自体が主たる研究目的となるものがある。そのような作業に対してはそれを円 滑に進め、成果の公開を促す環境を整えたい。また、提出されたテキストを基 礎にした、特定のテーマについての体系的な文献学的研究も推進していきたい。 さらに、言語の種類とテキスト化の関係については、これまであまり議論され ることはなかった。ここではテキスト化が言語によって如何に異なる手法をと るかについて考察し、各言語に共通するテキスト化の手法の開発を検討したい。
   古文献の文献学的整備とその公開は、過去を扱う各領域の 研究に直接役立ち、グローバル化時代の通文化的な研究への基礎的研究として 有意義な役割をはたすだろう。また若手研究者の育成に向けても、重要な研究 資料として位置づけられるであろう。
(研究会リーダー 文学研究科教授 吉田和彦)
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