歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ
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  文学研究科西洋史学専修が中心となって活動した「歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ」研究会は、前世紀の終わり頃から統合に向かってめざましい変化を遂げつつあるヨーロッパを、歴史学の観点から改めて捉え直すための多面的な研究をおこない、多くの具体的な成果を上げた。本研究会はその問題関心と成果を受け継ぎ、さらに深化しようとする試みであり、ヨーロッパ文明の最高の産物といって過言でない「人文学知」(humanities)を取り上げる。ここでいう人文学知とは、具体的には古代ギリシアにおいてパイデイアとして誕生し、ヨーロッパの歴史的歩みの中でいわゆる人文学的教養として発展してきたものである。かの歴史家ヤーコプ・ブルクハルトは、ヨーロッパの社会は古代ギリシア以来の古典的精神を受け継ぐ者によってのみ形成され、この精神の連続性こそがヨーロッパのヨーロッパたる所以であると喝破したが、人文学的教養はまさにこの精神の基盤であり本体でもあって、ヨーロッパをヨーロッパたらしめている本源的なものとみることができる。しかし、その内実や意義は、同じヨーロッパにありながら、地域や時代によって大きく異なるばかりでなく、ブルクハルトより1世紀以上の年月を経た今日、改めてヨーロッパにおけるその歴史的意義が問い直される必要があろう。

  本研究では、ヨーロッパ史上の各時代や地域における人文学的教養の様態やその特質を明らかにすることにまず努めることとなる。その際、人文学的教養の内実だけではなく、その創造者や担い手に着目し、時の政治的社会的な状況との関係を重視して、その形成と発展を解き明かすことを試みる。例えば、古代ローマ社会にあっては、修辞学を核とする高度な人文学的教養は、元老院議員身分を中心とする帝国エリートによって担われ、同時に彼らにとってそれがエリートたる証となっていたのであった。また、19世紀から20世紀初め頃の西欧諸国においては、古典学の教養が大学、およびその前段階である中等教育機関によって熱心に教授され、それぞれの国の指導的人物の養成に重大な関係を有していただけでなく、そうした「教養」を持つ上層の人々をそれ以外の人々から社会的に区別する規範ともなっていた。従って、本研究会では、古代から近・現代に至るまで、人文学的教養の担い手となった集団を正確に把握し、その構造から心性まで広範囲に問題とし、厳密に分析することが重要である。

  本研究会の活動は、さらに進んで、高度な教養の担い手として想定される貴族やエリート階層にとどまらず、広く一般の人々の「知」の様態にも目を向け、リテラシーの問題も念頭に置きながら、各時代・社会における教養の形成・獲得の過程を立ち入って検討することへと向かう。そこでは、古代ギリシアの「学塾」から近・現代の大学教育まで検討の対象となり、近年の教育社会史的研究の諸成果も参看されることとなろう。とくに、大学が有する人文学知形成の意義を歴史的に問うことは、世界史の中でもとりわけヨーロッパ史上において初めて充分に可能な作業であり、また今日のわが国の大学や社会にとってもきわめて有意義な考察となる。

  ヨーロッパを、「人文学知」の観点から問い直そうとするこの研究会の試みは、ヨーロッパ人でない研究者がヨーロッパの本質を問い直そうとする挑戦といってよい。この試みを効率的におこなうためにも、また独善に陥らないようにするためにも、ヨーロッパ人研究者の研究協力は必須であり、このために、研究会は構成員による海外調査や外国人研究者を招いての国際シンポジウムの開催を予定している。

  以上のような活動目標とその実践によって、グローバル化した現代における人文学知の意義を再発見できると同時に、変化しつつあるヨーロッパの本質に関して新たなる認識を得られるものと期待される。



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京都大学大学院文学研究科/21世紀COEプログラム
「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」
13研究会「ヨーロッパにおける人文学知形成の歴史的構図」
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