歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ
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 政治・経済・文化の諸次元における「グローバル化」の波をうけて、歴史研究者がこれまで暗黙の前提としてきた近代国民国家(あるいは近代歴史学)の価値観や枠組みが、今日深刻な動揺にさらされている。例えば、ヨーロッパ連合の成立は、西洋史研究者が対象とする現実の歴史空間を大きく変容させた。このトランスナショナルな共同体はアイデンティティ複合(地域・国民国家・ヨーロッパ連合)の問題を顕在化させただけでなく、「彼らの内なる非ヨーロッパ的要素」との相克をいっそう深刻なものにしている。拡大EUという「複合的大地域」がはらむこれらの矛盾に関しては、すでに社会学や国際政治学からの同時代的・空間的分析があるが、歴史学の立場からはこれをいかに捉え返すことができるであろうか。例えば、古代史をはじめとする前近代史からは、各時代のリージョナル・ナショナル・トランスナショナルな結合のあり方を探り、近代以降にイメージされるヨーロッパ像を解釈し直すことも一つの方法である。また、今日の西洋史研究者が研究対象とする空間は、狭義のヨーロッパをはるかに超えた広領域にわたっており、これらの地域から「ヨーロッパの自己意識」を問い直すことは、西洋史研究の自己検証に不可欠な作業となる。

 本研究は、非ヨーロッパ人という距離感覚を生かしつつ、また安直なオリエンタリズム批判にも陥ることなく、ヨーロッパ・アイデンティティの特質を捉えようとする。その際、今日のEU拡大と密接に結びついたヨーロッパ・アイデンティティや、その影響下に進められている新しいヨーロッパ史研究の動向を検討することのみならず、上に記したように、前近代の様々な時代、地域における多様なアイデンティティの重層的、複合的関係をも明らかにすることをめざす。このような多様なアイデンティティを規定する要因として具体的には、歴史意識、神話と伝承、言語マイノリティ、地域と国家の関係、人と物のトランスナショナルな動き、植民地と帝国、移民など、現代世界に連なる様々な問題をとりあげる。

 研究遂行に際しては、狭義の西洋史以外の研究に従事するメンバーの参加により、ヨーロッパ史をその外部より捉え直すこと、ヨーロッパ人研究者との交流・共同研究をもおこなうことにより、外国史研究としての本研究の意義を確認すること、グローバル化やアイデンティティについて新しい感覚を持つであろう大学院生など若手研究者をメンバーとして、また随時研究会参加者として加えることにつとめる。

 本研究は、その成果をふまえて、最終的には21世紀にふさわしい世界史像の構築に向けた提言をおこなうことを目指すものである。


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京都大学大学院文学研究科/21世紀COEプログラム
「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」
13研究会「歴史としてのヨーロッパ・アイデンティティ」
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