講義案内(令和7年度)

西洋史学専修ウェブサイト 講義案内(令和7年度)

1 8:45〜10:15
藤井崇 前・後期 独書講読
2 10:30〜12:00
伊藤順二 前・後期 特殊講義
藤井崇 前期 特殊講義
藤井崇・DUBBINI, Rachele 後期 特殊講義
VIERTHALER PATRICK 前期 英書講読
福田耕佑 後期 英語論文講読
小山・金澤・藤井・安平 西洋史学実習
小山啓子 後期 特殊講義
卒論演習(演習Ⅴ)
後藤敦史 後期 特殊講義
田野大輔 後期 特殊講義
3 13:15〜14:45
安平弦司 前・後期 特殊講義
下垣仁志 前・後期 英書講読
伊藤順二 前・後期 露書購読
金澤周作 前・後期 特殊講義
藤原辰史 前・後期 特殊講義
佐藤公美 前・後期 特殊講義
辻河典子 後期 特殊講義
前・後期 大学院演習
4 15:00〜16:30
林田敏子 前期 特殊講義
小山哲 前・後期 ポーランド書講読
竹下哲文 前・後期 特殊講義
小関隆 前・後期 特殊講義
菅原百合絵 前・後期 仏書講読
村瀬有司 前・後期 イタリア書講読
福元健之 前・後期 特殊講義
5 16:45〜18:15
藤井崇 前・後期 西洋史学講義
佐々木博光 前期 特殊講義
小山哲 前・後期 特殊講義
演習Ⅰ,Ⅱ, Ⅲ,Ⅳ

講義内容【講義】

  • 【前・後期・火5】 藤井崇 西洋史学講義
    <授業の概要・目的>
     本授業は、第一に、西洋史学が主たる対象とするヨーロッパにおいて歴史と歴史学がどのようなものである(べき)と認識されてきたのかを考察し、第二に、ヨーロッパを対象とした20世紀以降の歴史学の論点と方法論を確認することを目的とする。われわれが漠然と考える歴史や歴史学(「過去の出来事」?「過去の出来事についての学問」?)は、その対象や内容について人類の諸文明において議論が重ねられてきたが、ヨーロッパでの歴史・歴史学の概念形成は、現代歴史学に決定的な影響を与えているという意味で、良くも悪くも特権的な立場を占めている。本授業の第一部では、この概念形成の軌跡を、古代から19世紀までたどる。本授業の第二部では、こうして形成された近代以降の歴史学が、関連諸学問からの影響によってその方法論を多様化させ、さまざまな新しい論点を発掘していく過程を、おもに日本語で読める名著を分析する形で紹介する。

講義内容【特殊講義】

  • 【前期・月2】 伊藤順二  ロシア帝国末期のジョージア
    <授業の概要・目的>
     19世紀後半から1905年までの帝政ロシア支配下の南コーカサス史を、ジョージア中心に概観する。ロシア人がチェチェン人やジョージア人に抱くイメージは、少なくとも19世紀以来現代に至るまで、「高貴な野蛮人」あるいは単に「野蛮人」である。南コーカサスは帝政ロシア初の本格的植民地であり、オスマン帝国との最前線の一つでもあった。住民に対する民族学的視線は帝国の統治政策に直結すると同時に、「高貴な野蛮人」への文学的憧憬をも産み出した。一方、「治安の悪さで悪名高い」南コーカサスは、傭兵の輸出地としても名高く、義賊伝説に溢れ、スターリン等の革命家を輩出した地でもあった。本講義では帝国とジョージア人の関わりを主軸に、19世紀後半におけるナショナリズムと社会主義の相関関係について考えたい。
  • 【後期・月2】 伊藤順二  第一次次世界大戦期の南コーカサス
    <授業の概要・目的>
     南コーカサスは「東部戦線」と並んでロシア帝国の最前線だった。ジョージアの社会主義者やアルメニアやアゼルバイジャンの民族主義者のほとんどは、第一次世界大戦開戦に際し、帝国の戦争に全面協力した。帝国の中心における革命は彼らにとって予期せぬ事件だったが、さまざまな構想を一気に開花させる力となった。本講義では南コーカサスにおける戦争と革命の経緯をジョージア中心にたどりつつ、ロシア革命なるものの影響力を再考したい。
  • 【前期・月3】 安平弦司 近世オランダにおける宗派共存とカトリックのサバイバル2
    <授業の概要・目的>
     宗教改革後のヨーロッパを生きた人々にとって宗派共存は大きな課題・試練であった。なぜなら、当時のヨーロッパで宗教的多様性は、一般的に公的秩序や政治=社会的安定への脅威として認識されていたからである。そうした近世ヨーロッパの中にあって、改革派(カルヴァン派)を唯一の公的教会とするオランダ共和国は、宗派共存が機能していた社会として知られ、ときに「寛容の楽園」とも称される。他方、オランダ共和国においてカトリックは潜在的な国家反逆者の烙印を押され、公的領域における多くの権利を剥奪されていた。本講義は、近世オランダの宗派共存を、従来の研究で主に用いられてきた改革派の統治戦略の視角のみならず、カトリックの生存戦術の視角からも捉えなおす。そうすることで、現代世界の喫緊の課題でもある共存や寛容といった問題を、政治=宗教的マジョリティと政治=宗教的マイノリティ双方の視点から歴史的・多角的に理解することを目指す。本年度前期は特に、オランダ史において「災厄の年」とされている1672年以降に焦点を当て、災厄の年に始まるフランス軍によるユトレヒト市の占領、貧民救済、そして市民権・市民性のテーマを取り上げる。
  • 【後期・月3】 安平弦司 近世オランダにおけるカトリックとジャンセニスム論争3
    <授業の概要・目的>
     近世のオランダ共和国は、改革派(カルヴァン派)を唯一の公的教会とするプロテスタント国家であり、かつ多宗派共存社会でもあった。オランダのカトリック共同体は、差別的待遇を受けながらも17世紀の過程で再建されていったが、ジャンセニスム論争を経て、1723年にユトレヒト教会分裂を経験した。ジャンセニスムとは、近世カトリック教会内部で異端視された思想である。教会分裂により、オランダのカトリック共同体は、ローマ教皇に認可されるもプロテスタントのオランダ政府には否認されたローマ・カトリックと、教皇に否認されるもオランダ政府には認可された古カトリック(ジャンセニスト)に分裂し、両者の分断は現在も続いている。本講義では、ジャンセニスム論争を通じて、17・18世紀のオランダ共和国のカトリック共同体の復興と内部分裂を考察する。そうすることで、宗教改革後の近世ヨーロッパにおける複数宗派の共存・競合という問題を多角的に理解することを目的とする。本年度後期は特に、ジャンセニスム論争の社会経済史や宗教文化史についての議論を充実させる。
  • 前期・火2】 藤井崇 古代ギリシア・ローマ世界における経済格差
    <授業の概要・目的>
     本授業は、現代世界の大きな問題の一つとなっている経済格差の問題に注目し、これを歴史的枠組みのなかに位置づける試みとして、古代ギリシア・ローマ世界における経済格差を考察する。過去の社会を幅広く対象として経済格差を考えてきた思想家、歴史家の概要をまとめたのちに、ヘレニズム期とローマ帝政期を中心として、ポリス・王国・帝国での経済格差のあり方を分析する。ここでは、戦争・軍事、市民権、エリート形成といった、伝統的なテーマの見直しも含まれる。
  • 【後期・火2】 藤井崇・DUBBINI, Rachele 古代ギリシア・ローマ世界における聖域の考古学
    <授業の概要・目的>
     本授業は、ラケレ・ドゥッビーニ(イタリア・フェッラーラ大学、京都大学大学院文学研究科客員准教授)と藤井崇が共同で開講する。ドゥッビーニ担当回は英語、藤井担当回は日本語を、主な使用言語とする。本授業の目的は、古代ギリシア・ローマ世界における聖域(sacred spaces)と聖域での各種の現象を、考古学・古代史の観点から分析することである。こうした聖域の考古学遺構は、景観、社会と経済、神話と歴史的記憶、個人と集団の経験の実態について、多くの示唆を与えてくれる。こうした聖域でこそ、宗教的、政治的、経済的、芸術的活動が、相互影響を与えながらおこなわれていた。聖域は、古代世界を知るために、根本的に重要である。ギリシア・ローマ世界に特有の文化的ダイナミクスよりよく理解するために、聖域でおこなわれた相互影響のあり方と社会と文化の形成を把握する必要がある。
  • 【前期・火3】 金澤周作 もうひとつの奴隷貿易――近世地中海とイギリス
    <授業の概要・目的>
     近世ヨーロッパの人びとは、よく知られた大西洋横断する黒人の奴隷貿易と並行して、地中海でのムスリムとキリスト教徒(白人)の奴隷貿易にも関わっていた。後者はあまり知られていないが、近年研究が活発化し、多面的な実相が解明されてきている。本講義では、ふたつの奴隷貿易の対比と関係に注意しながら、地中海の奴隷貿易を詳論する。前期は先行研究と若干のイギリスの史料を用いながら、18世紀までの全体像を描くことを目指す。
  • 【後期・火3】 金澤周作 ふたつの奴隷貿易の廃絶――近代地中海・ヨーロッパ・イギリス
    <授業の概要・目的>
     近世ヨーロッパの人びとは、よく知られた大西洋横断する黒人の奴隷貿易と並行して、地中海でのムスリムとキリスト教徒(白人)の奴隷貿易にも関わっていた。後者はあまり知られていないが、近年研究が活発化し、多面的な実相が解明されてきている。本講義では、ふたつの奴隷貿易の対比と関係に注意しながら、地中海の奴隷貿易を詳論する。後期は、主として地中海奴隷貿易に関わるイギリスの未刊行史料を精読しつつ、最盛期を過ぎた地中海奴隷貿易の内実に迫り、さらに、19世紀初頭におけるふたつの奴隷貿易の同時的な廃絶プロセスを描くことを目指す。
  • 【前期・火4】 林田敏子 大戦とジェンダーー軍隊・記憶・セクシュアリティ―
    <授業の概要・目的>
     二〇世紀に起こった二度にわたる世界大戦は、銃後を広く巻き込む総力戦として多くの女性たちを動員した。前線にまで拡大した女性の戦時活動は、ときに「男の領域の侵犯」ととらえられ、様々な手段でジェンダー秩序の維持がはかられた。本講義では両大戦期のイギリスを対象に、大規模な戦時動員が引き起こした諸問題をジェンダーとセクシュアリティの観点から考察する。戦争に主体的に関わることを求められた女性たちの活動や経験を、軍隊(前線)と家庭(銃後)という二つの空間の重なりや連続性のなかに位置づけてみたい。女性に求められた戦時の役割や女性表象が果たした機能、戦時の「男らしさ」をめぐる価値観の揺らぎ、そして長い「戦後」という時空間における大戦の記憶の変遷に焦点をあてながら、女性たちの長い「戦い」を論じる。
  • 【前・後期・火4】 竹下哲文 ラテン語中級講読
    <授業の概要・目的>
     ラテン語の初級文法を学んだ人を対象として、キケロー『カエリウス弁護』(Pro Caelio)を教材に講読を行う。
  • 【前期・火5】 佐々木博光 フィランソロピー(慈善)の西欧中近世史
    <授業の概要・目的>
     西欧諸国は産業経済の先進国であると同時に、民間の慈善活動が盛んなことでも知られる。それは国や自治体の福祉行政に勝るとも劣らない役割を果たしている。わが国は明治維新以降先進国の仲間入りを果たすために産業化を急ピッチで進めたが、西欧のもうひとつの顔である慈善を通じた民間による支援活動という側面を看過しがちであった。今後バランスのよい発展を模索し、社会の持続可能性を高めるために、西欧における慈善の伝統をその淵源に遡り考察する必要がある。中世キリスト教社会の慈善、さらに宗教改革以降のキリスト教諸教派の慈善を、関係者の動機にまで踏み込んで究明する。なにゆえ西欧で慈善という利他的な活動が栄えたのかを明らかにすることが目的である。
  • 【後期・水2】 山口育人 20世紀英米経済関係の研究
    <授業の概要・目的>
     この講義は、20世紀世界史の展開を国際経済システムに着目して考察することを目的とする。
     19世紀中葉からのヘゲモニー国家イギリスの自由貿易路線と国際通貨ポンドを基盤とした国際経済秩序は、第一次世界大戦と世界恐慌により終焉を迎える。第二次世界大戦後は、アメリカ合衆国のヘゲモニーのもと、IMF・GATT体制と呼ばれる国際経済システムが構築されたと理解される。しかし、例えば通貨システムをみてもポンド体制からドル体制への単線的移行だったわけではない。大戦後もポンドを基盤とする通貨スターリング圏は一定の役割を果たし、また1970年代以降、現在に至るまでは、アメリカの国際収支の強さとは異なり、グローバリゼーションが支えるドル基軸体制が展開している。本講義は、英米覇権交代という単純な展開としてではなく、脱植民地化とグローバルサウスの出現、冷戦対立、ヨーロッパ統合、「福祉国家」から「新自由主義」への政治経済思想の転換といった20世紀世界の複雑な展開を反映したものとしての国際経済システムのあり方を、英米経済関係に着目しつつ考えることを中心視角としたい。
  • 【前・後期・水3】 藤原辰史 食と農の人文学
    <授業の概要・目的>
     とりわけ20世紀以降、食と農はどのように変化を遂げてきたのか? ドイツと日本を中心に、食べものをめぐる制度や文化や技術の変遷を追う。この講義の目的は、現代史の知識を蓄えることではない。あるいは、現代史の概略をつかむことでもない。現代史を批判的に眺める目を獲得し、食と農の未来の構築するためのヒントを考えることである。
  • 【前期・水3】 佐藤公美 中世ヨーロッパの国家
    <授業の概要・目的>
     本講義のテーマは、中世ヨーロッパ国制史、政治社会史、政治文化史の諸問題である。研究史上の諸論点を概観し、授業者が考察を加えて展開し、受講生が基本的参考文献の読み込みに取り組み自らの考察を深めることにより、受講生が専門的西洋中世史研究への導入的知識と学術的議論のフレームを習得することが本授業の目的である。
  • 【後期・水3】 佐藤公美 中世イタリアのコミュニティ・国家・政治文化
    <授業の概要・目的>
     中世イタリアでは、都市コムーネと「地域/領域国家」を舞台に高度な政治文化が繁栄した。そこでは社会の幅広い層の人々が日常の「政治」行為に関与し、現実の政治経験と政治理論の緊密な関係が見られた。近現代の政治、国家、社会と思想も、中世イタリアの歴史と切り離せない関係にあるのである。その中でも近年目覚ましい研究の進展が見られたのが、中世後期の党派(グェルファ党とギベリン党)とシニョリーア制である。本講義では、党派とシニョリーアに関するテーマを導入し、中世後期の政治反乱とコミュニティを分析する。これにより広い意味での政治文化と幅広い層の人々の政治行為をつなぎ、中世イタリア政治史を長い歴史の中に位置づける考察を学ぶ。
  • 【前期・水4】 小関隆 イギリス・アイルランド現代史:世界大戦からブレクシットまで
    <授業の概要・目的>
     今年度の授業では、二度にわたる世界大戦からブレクシット(イギリスのEU離脱)まで、イギリスとアイルランドの現代史を通覧する。前期には、第一次大戦、大戦間期、第二次大戦、ヨーロッパ統合にかかわる重要な論点を検討し、1960年代以降については後期の授業で扱う。基軸になるのはイギリス=アイルランド関係、両国が相互に影響を及ぼしあう歴史である。
  • 【後期・水4】 小関隆 イギリス・アイルランド現代史:世界大戦からブレクシットまで(つづき)
    <授業の概要・目的>
     前期で扱った、第一次大戦、大戦間期、第二次大戦、ヨーロッパ統合に引き続いて、後期の授業では、サッチャリズムの歴史的前提(1960~70年代)、サッチャリズムの時代、ポスト冷戦、ブレクシットにかかわる重要な論点を検討し、イギリスとアイルランドの現代史を通覧する。基軸になるのはイギリス=アイルランド関係、両国が相互に影響を及ぼしあう歴史である。
  • 【前期・水5】 小山哲 環大西洋革命とポーランド・リトアニア
    <授業の概要・目的>
     18 世紀後半は、大西洋をはさんで、アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の双方で、政治地図が大きく 塗りかえられた時代である。アメリカ大陸では、イギリス領 13 植民地が本国の支配に武力で抵抗し、アメリカ合衆国として独立した。ヨーロッパ大陸の西方ではフランス革命によって旧体制が崩壊し、東方ではポーランド・リトアニア共和国が周辺の3国によって分割されて消滅した。これらの一連の変化は相互に連関しており、その全体を総称して「環大西洋革命」と呼ぶ。
    本講義では、大西洋をまたいで活躍したタデウシュ・コシチューシコ(1746~1817)の生涯をたどりながら、啓蒙期の知的交流、アメリカ独立革命・フランス革命と ポーランド・リトアニアの変革の動き、分割と抵抗が連鎖する経緯を追ってみたい。
  • 【後期・水5】 小山哲 近世ポーランド・リトアニア共和国の文化と社会――多様性とコミュニケーションの視点から
    <授業の概要・目的>
     近世のポーランド・リトアニア共和国は、バルト海南岸から黒海北方のステップ地帯にかけて広がる領域を支配する複合的な国家であった。その国土は東西のキリスト教圏の境界線上に位置しており、住民のなかにはキリスト教徒以外の宗教の信徒も含まれていた。16世紀には、宗教改革の波及によって、宗派的な多様性はさらに高まった。宗教的・言語的・階層的に多様なこの地域の人びとは、どのように社会に統合され、共存していたのであろうか。また、彼らのあいだのコミュニケーションは、どのようになされていたのであろうか。この講義では、具体的な事例の考察をとおして、こうした問題を考えるための手がかりを提示したい。
  • 【後期・木2】 小山啓子 王権と都市の交差から見る近世のフランス
    <授業の概要・目的>
     フランス絶対王政と言えば教科書にも出てくるようなテーマですが、「絶対王政」とは実際にはどのような体制で、これまでどのような観点から研究され、解釈されてきたのでしょうか。また、フランスという地域が形成されるにあたって歴史的に育まれてきた個性とは、どのようなものなのでしょうか。近年の近世フランス史研究の動向を整理しながら、アンシアン・レジーム期の諸制度、フランス王権の特質、宗教(教皇や教会)との関係性、儀礼と象徴、都市の発展、そして主権国家の形成といった多様な角度から、近世フランス社会を具体的に分析し、前後の時代にも視野を広げつつ問題のありかを考えてみたいと思います。
  • 【後期・木3】 辻河典子 ヨーロッパ中・東部の歴史と記憶:ハンガリー近現代史をめぐって 
    <授業の概要・目的>
     「東欧」と一般的に呼ばれてきた地域の歴史、特にハンガリーの近現代史とそれをめぐる記憶を題材として、近現代ヨーロッパ史をより批判的な視点で考察できるようになることを目指す。
  • 【後期・金2】 後藤敦史 幕末政治史・外交史の研究状況とその課題
    <授業の概要・目的>
     幕末の政治史研究および外交史研究では、近年、精緻な実証研究の成果が相次ぎ、新しい幕末史像が様々なかたちで提示されている。たとえば、従来はあまり研究の対象となってこなかった政治主体の研究が進み、また海外史料の積極的な収集により、幕末日本を取り巻く国際環境についても新しい成果が相次いでいる。
     本授業では、新しい研究成果を踏まえて幕末の政治史・外交史の再検討をおこなうとともに、さらなる課題について考察を深めたい。
  • 【後期・金2】 田野大輔 ホロコーストの社会学
    <授業の概要・目的>
     この講義では、ナチ政権下で行われたユダヤ人の大量殺戮=ホロコーストについて、それを可能にした組織に焦点を当てながら解説する。とりたてて狂信的な反ユダヤ主義者ではなかった普通の男たちが何千、何万ものユダヤ人の殺害を遂行したのはなぜか、その原因を様々な研究を参照しながら論じる。
    授業は組織社会学的な観点から書かれた研究書(シュテファン・キュール『普通の組織――ホロコーストの社会学』)を用いて進める。
  • 【前期・金4】 福元健之 チャクラバルティによる歴史学批判の検討
    <授業の概要・目的>
     本講義では、シカゴ大学で教鞭をとる歴史家・哲学者のディペシュ・チャクラバルティによる議論を中心に取りあげ、彼による歴史学批判の批判的検証を行う。
     気候変動に関心が高まる今日、日本語に翻訳されたチャクラバルティの著作は、いずれも地球規模の環境問題に関するものであるが、歴史研究の文脈でチャクラバルティの名は、歴史学全体に影響を与えたサバルタン研究グループの一員として知られていた。ヨーロッパ中心主義のなかで黙殺されてきた主体の声を汲み取る繊細な作業に従事してきた彼が、そうしたミクロな世界とは対極に位置するかにみえる「惑星」的問題について論じるに至った経緯を踏まえ、そのうえで彼の議論を批判的に自分たちの方法論に落とし込む方策について考察する。
     歴史研究は、先行研究者が成し遂げた仕事の誠実かつ批判的な読解に基づき、独自の問いを立てるものである。本講義は、チャクラバルティが方法論的・実証的に論じた欧米の(必ずしも欧米だけではない)歴史についての講義であるのみならず、史学史の一つの実践である。
  • 【後期・金4】 福元健之 戦間期の医療・技術・環境の歴史
    <授業の概要・目的>
     20世紀前半の放射線医学の周囲には、日光療法や「人工太陽」による光線療法、放射性物質であるラジウムの医療利用など、現在からみれば「非科学的」な治療方法が徘徊していた。いや、より正確に言えば、発展途上にあった放射線医学は、日光療法や光線療法、ラジウム療法とともに「放射エネルギーによる治療Strahlentheraphie」という共通の枠組のなかに分類されていた。天然の日光が放射能と同じカテゴリーにあったのは、今日からすれば奇妙にみえるが、その驚きや戸惑いは、医療・技術・自然の関係を歴史的に考えることの出発点になりえる。
     本講義では、この問題について論じるために、戦間期ポーランドのウッチ市に焦点を当てる。医学的知識のみならず、開発・製造される技術を西欧から受容したポーランドで、「放射エネルギーによる治療」がどのように普及し、それによって医療のあり方がどのように変化したのか、を、一次史料の読解に基づきながら明らかにする。

講義内容【集中講義】

本年度は開講されない。

講義内容【演習】

  • 演習Ⅰ  西洋古代史演習 (藤井崇)
    <授業の概要・目的>
     この授業は、ギリシア・ローマ史を中心とする西洋古代史の研究を本格的におこなう能力を養成することを目的とする。主に外国語で書かれた一次史料ならびに二次文献を分析することで、基本的な歴史的事象やこれまでに学界で議論されてきた代表的論点を学び、自身で歴史学的課題を設定し、それを解決する能力を涵養する。また、研究の成果を口頭・文書で論理的に表現し、他の研究者と意義あるディスカッションをおこなう技能の獲得も目指す。
  • 演習Ⅱ  西洋中世史演習 (佐藤公美)
    <授業の概要・目的>
     本演習では、ヨーロッパ史に関係する欧米の相対的に新しい英語研究文献を読解し議論する。これにより英語で専門研究文献を精読する力を養うとともに、現在の歴史学方法論、解釈理論、史料論、および研究上の諸論点を学び、理解を深め、ヨーロッパ史についての基本的な知識を身に着ける。本演習では中世史を中心に扱う。今回のテーマは中世の領主制再考である。領主制は中世ヨーロッパの基本構造でありながら、各国の歴史学が、それぞれの地域的現実にしたがって、異なる定義と解釈を与えてきた。また、領主制は、支配と従属による「人と人との絆」(M・ブロック)を農民層や隷属民に至る社会の基底において示すものであり、権力と社会を理解するための最も重要な鍵である。近年の研究は中世の権力と社会をコミュニケーションという広義の文化史的観点から大幅に見直してきたが、この観点から、領主制に新たな光を投げかければ、どのような新しい理解が立ち上がってくるのだろうか?今回の演習では、この問題に関する最新の研究成果に向き合い、歴史研究の思考力と知識と技術を磨きながら、参加者各自が新たなヨーロッパ史像を考えることを目指す。
  • 演習Ⅲ  西洋近世史演習 (小山哲・安平弦司)
    <授業の概要・目的>
     近世のヨーロッパ史にかんする欧米の比較的新しい研究文献を読解し、また、個別の論点について討論することをつうじて、近世ヨーロッパにかんする基本的な知識を身につけると同時に、最近の研究動向や研究史上の争点についての理解を深めることを目指す。
  • 演習Ⅳ  西洋近代史演習 (金澤周作)
    <授業の概要・目的>
     この演習では、西洋の近代(18世紀半~20世紀初頭)を主体的に探求するのに必要な作法を学ぶ。そのために、まとまった分量の欧米の研究文献を精読することを課す。
  • 演習Ⅴ  卒論演習 (小山・金澤・藤井・安平)
    <授業の概要・目的>
     卒業論文の研究テーマについて、参加者が中間報告をおこない、教員3名と受講者の全員で討論する。研究報告と討論を通じて研究テーマに関する理解を深めるとともに、研究を進める上での問題点を認識し、卒業論文の完成度を高めることを目標とする。西洋史学専修4回生は必修。
  • 大学院演習 (小山・金澤・藤井・安平)
    <授業の概要・目的>
     この授業では、受講する大学院生が各自の専門研究の成果を発表し、授業に参加する院生・教員全体でその発表にかんして問題点を指摘し議論する。本演習をつうじて、受講者の大学院における研究の発展に資するとともに、西洋史上の様々な時代・地域にかかわる研究テーマ、研究の視角や手法、史料の特徴とその利用の方法などについて相互に理解を広め、また深める場とする。

講義内容【講読】

  • 【前・後期・月3】英書講読 (下垣仁志)
    <授業の概要・目的>
     考古学の射程を大幅に広めたことで名高いV・G・Childeの代表作である『Man Makes Himself』(3版/1956年)の精読をつうじて、①文明および都市の形成にいたる人類史、②考古学の方法論、③雄大な歴史構想の論理展開、などを習得する。テキストの輪読と内容についての解説および議論が、講読の基本的な枠組みとなる。
  • 【前・後期・火1】独書講読 (藤井崇)
    <授業の概要・目的>
     本授業は、おもに歴史学の分野で必要とされる、学術的なドイツ語の読解能力を養成することを目的とする。利用するテクストは、Angelos Chaniotisによる古代ギリシア人の感情に関する諸著作のなかでも、特にEmotionen und Fiktionen (2023)とする。感情が歴史学の対象となってすでに久しいが、本授業ではChaniotisの著作の講読を通じて、ギリシア人の感情のあり方を理解することを目標とする。
  • 【前期・火2】英書講読 (VIERTHALER PATRICK)
    <授業の概要・目的>
     本授業では、Samuel F. Wells Jr. (2020), Fearing the Worst: How Korea Transformed the Cold War. New York: Columbia University PressおよびPark Jeong-Mi (2024), The State’s Sexuality: Prostitution and Postcolonial Nation Building in South Korea. Oakland: University of California Pressの一部を読む。まず、Wellsは、朝鮮戦争をグローバルな観点から考察し、朝鮮戦争が世界的な東西冷戦に及ぼした影響について実証しているものである。次に、Parkは、大韓民国の経済発展政策の一環として、売春による外貨獲得に焦点を当てる。それだけでなく、なぜこのような歴史がほとんど記憶されてこなかったかについても考察した一冊である。本書の精読を通じて、英語で書かれた研究文献の読解力を向上させるだけでなく、東西冷戦の歴史をグローバルな観点から考える認識を深めることが、本授業の目的である。授業にさいして、予習は毎週必須である。また、毎回授業内に課題として和訳を提出してもらう予定である。本授業は講読の授業であるが、読解するうえで必要と思われる背景知識についても、授業中に適宜解説する。
  • 【後期・火2】英語論文講読 (福田耕佑)
    <授業の概要・目的>
     本講義では、移民や国籍といった幅広い社会現象を論じる社会学者のロジャース・ブルーベイカーのThe “Diaspora” Diasporaという英語による学術論文を講読する。また受講生は、講義の中で課される発表課題について調査し報告、また討論を行う。
     本講義の目的は以下点に存する。一つ目の目的は、英語による学術論文を適切な方法で読むための読書技術を習得することである。本講義において受講生は英文の訳出を順番に行い、一定以上の分量をもった学術論文レベルの文章を正しく読解する訓練を行う。
     二つ目の目的は、現代文化を論じるうえでキーワードとなる「ディアスポラ」や「アイデンティティ」、また「難民」や「多様性」という語句について学ぶことである。これらのキーワードは社会学や文学、ナショナリズム論やメディア表象といった多岐にわたる分野で用いられる用語であるが、各々の分野で定義や用法の異なる概念であり、本講読ではこういった現代文化で使用される概念を他角度化から検討し、分野横断的に研究活動を行う基礎力の養成を目指す。本講義ではとりわけ「ディアスポラ」という概念に着目する。
     また三つ目の目的は学術的な口頭報告を行う訓練をすることである。先行研究はどのように調査すればよいのか、調査した資料はどのように記載すべきなのか、出典の取り扱いはどのように行うべきなのか、PPTやレジュメはどのような手順で記載するのか、といった学術上、或いは学術以外の場でも必要となる「スキル」についての訓練を行う。
     本講義では分野をまたいで使用される「ディアスポラ」といった諸概念について学ぶだけでなく、この概念を批判的に検討していくことになるが、「ディアスポラ」以外にもナショナリズムや移民や難民という分野を越えて現代社会を考える上で必要なキーワードを学ぶことになり、他の分野においても応用できるだろう。
  • 【前・後期・火3】露書講読 (伊藤順二)
    <授業の概要・目的>
     19世紀の思想家の文章の読解を通じて、ロシア語の一般的能力、および歴史的・批評的文書に対する読解力を向上させる。
  • 【前・後期・火4】ポーランド書講読 (小山哲)
    <授業の概要・目的>
     ポーランド語で書かれた歴史書を精読することをつうじて、ポーランド語の読解力の向上を図るとともに、ポーランドにおける歴史認識や歴史研究の現状について理解を深めることを目標とする。
  • 【前期・水4】仏書講読 (菅原百合絵)
    <授業の概要・目的>
     「ギャラントリ」概念考察
     フランス映画やロココ絵画などの印象もあってか、フランスはしばしば「派手な恋愛」「色恋沙汰の駆け引き」の国であると考えられてきた。そしてこのイメージは、フランス人たちがしばしば自分自身に与えてきたものでもある。そうしたイメージをもっともよく表現する語はフランス語に特有の「ギャラントリ」であろう。本講義では、このギャラントリという概念・形容について、歴史家アラン・ヴィアラ(1947-2021)の『ギャラントリ(La galanterie. Une mythologie francaise)』を読みながら考察していきたい。「ギャラント(伊達な、きざな)」や「ギャラントリ」といった価値判断も含む論争的な語は、時には批判や愚弄の対象となりつつ、文学や絵画、音楽などのさまざまな分野においてつねに参照され続けてきた。歴史学において概念や呼称・形容詞を分析するとはどういうことなのか、文学作品や絵画を読み解くヴィアラの方法に目配りもしつつ、テクストを丁寧に読んでいきたい。
  • 【後期・水4】仏書講読 (菅原百合絵)
    <授業の概要・目的>
     アリエスの名著『〈子供〉の誕生』を読む
     本講義では、アナール学派の泰斗フィリップ・アリエス(Philippe Aries, 1914-1984)による『〈子供〉の誕生(L’enfant et la vie familiale sous l’Ancien Regime)』を読む。日本ではしばしば「〈子ども〉の誕生」の問題系はルソーと結びつけられてきたが、必ずしもルソーが「子どもの発見者」だとは言い切れない。アリエスは子どもが大人の世界から分けられておらず、家族というまとまりがほかの社会的紐帯によって薄められていた時代から、少しずつ家族が教育の中心になっていき、子どもが子どもとして扱われるようになってゆくその変化を丹念に描いている。政治や歴史的な事件に重点をおいてきたそれまでの歴史学に大きな変革をもたらし、研究対象や分析する史料の幅を拡げたアナール学派について簡単に概観した後、アナール学派的なアプローチが具体的にどのように実践されていったのかの例として『〈子供〉の誕生』を精読していきたい。
  • 【前期・水4】イタリア書講読 (村瀬有司)
    <授業の概要・目的>
     100枚の写真に即してイタリア近現代史のトピックを紹介した“Storia d’Italia in 100 foto”(V. Vidotto, E. Gentile, S. Colarizi, G. De Luna著)を講読します。1860年から2017年までのイタリアを対象に、写真1枚につき1頁の解説をコンパクトに組み合わせた本書は、比較的平易なイタリア語散文で書かれており、伊語テクストの読解力を効率よく身につけることができるでしょう。この読解力の養成が授業の主要な目的となります。イタリア人による歴史書は、日本人によって執筆されたものとは史観・価値観が異なるうえ、イタリア人の読者を想定したものであるためにこれを読むにあたって必要となる知識もまた異なります。このような原書の講読は、イタリア文化そのものにダイレクトに触れる機会を与えてくれるはずです。 
  • 【後期・水4】イタリア書講読 (村瀬有司)
    <授業の概要・目的>
     ヨーロッパ・地中海世界の歴史を取り上げた“Storia d’Europa e del Mediterraneo” (a cura di Roberto Bizzocchi)から16~18世紀の環境・社会について論じた章を講読します。平易なイタリア語で書かれた論考を読みながら読解力を養成することが授業の目的となります。 
     イタリア人による歴史書は、日本人によって執筆されたものとは史観・価値観が異なるうえ、イタリア人の読者を想定したものであるためにこれを読むにあたって必要となる知識もまた異なります。このような原書の講読は、イタリア文化そのものにダイレクトに触れる機会を与えてくれるはずです。

講義内容【実習】

  • 西洋史学実習 (小山・金澤・藤井・安平)
    <授業の概要・目的>
     この授業は、学生が西洋史の卒業論文を作成するために必要となる研究能力を、知識と技術の両面から身につけることを目的に開講する。具体的な史料(外国語)の分析法、研究情報の収集手順から西洋史研究の方法論や史学思想、さらには論文における議論の作法まで、具体的に学ぶ。