略歴
明治33年2月27日石川県に生まれる。第一高等学校を経て京都帝国大学文学部哲学科を卒業。昭和7年より同大学にて教鞭をとる。昭和12年より14年までドイツ留学。昭和22年、占領軍の政策により京大教授の職を退き、同27年に再任する。昭和44年より45年まで米国テンプル大学客員教授として招聘される。同年勲二等瑞宝章を、昭和47年西ドイツのゲーテ・インスティトゥートよりゲーテ・メダルを授けられる。鈴木大拙によって創始された英文仏教思想誌『イースタン・ブディスト』の編集責任を引き受ける。平成2年11月24日逝去。
西谷は、現代世界における最大の問題、また自身の生涯にわたるもっとも切実な問題は「ニヒリズム」である、と言った。ニヒリズムは日本語で「虚無主義」と表されるが、それは特に19世紀以降の西洋において生じ世界に拡がった、通常の虚無感が、克服されうる宗教の次元に再び現れる、という虚無の問題のことである。西谷は西洋の哲学や神秘主義、そしてなによりも禅をはじめとする東洋思想や修行法(参禅)を手がかりにして、「ニヒリズムを通してのニヒリズムの超克」という課題に取り組んだ。西谷は古今東西の思想を深く研究した上で、「禅の立場」にもとづく独自の宗教哲学を展開した。また、西谷の哲学的貢献は幅広く、科学や技術の問題、芸術論、文化論、社会問題、諸宗教間の対話においても見られる。現在西谷の哲学は日本人のみでなく、多くの西洋人哲学者や宗教学者からも注目され、また近年ではアジア諸国の研究者の注目も集めつつある。
テキスト
著作集
- 『西谷啓治著作集』(全26巻)、創文社、1986-95年
主要な著作および論文 (著作集の巻数は括弧に記す)
- 『根源的主体性の哲学』1940年(第1巻)
- 『世界観と国家観』1941年(第4巻)
- 『神と絶対無』1948年(第7巻)
- 『ニヒリズム』1949年(第8巻)
- 『宗教とは何か』1961年(第10巻)
- 『西田幾多郎―その人と思想―』1985年(第9巻)
- 『禅の立場』1986年(第11巻)
- 『般若と理性』1979年(第13巻)
- 「空と即」1982年(第13巻)
西谷との対話集
- 佐々木徹『西谷啓治随聞』法蔵館、1990年
- 西谷啓治編『思想のシンポジウム』 燈影舎、1985年
- 西谷啓治編『思想のシンポジウム(2)日本の思想風土』燈影舎、1986年
- 西谷啓治・八木誠一『直接経験——西洋精神史と宗教』春秋社、1989年
- 西谷啓治・吉川幸次郎『この永遠なるもの』燈影舎、1985年
- 伴一憲『家郷を離れず ―西谷啓治先生特別講義―』創文社、1998年
その他
- 西谷啓治著・上田閑照編『宗教と非宗教の間』岩波書店、1996年
- 「『近代の超克』私論」河上徹太郎・竹内好ほか『近代の超克』富山房、1979年
翻訳(著作のみ)
- Religion and Nothingness. Trans. Jan Van Bragt. Berkeley: University of California Press, 1982.
- Was ist Religion? Hrsg. Dora-Fischer-Barnicol. Frankfurt: Insel Verlag, 1986.
- The Self-Overcoming of Nihilism. Trans. Graham Parkes and Setsuko Aihara. Albany: SUNY Press, 1990.
- Nishida Kitarô. Trans. J. W. Heisig and Yamamoto Seisaku. Berkeley: University of California Press, 1991.
- La religion y nada. Trans. Raquel Bouso Garcia. Madrid: Ediciones Siruela, 1999.
西谷に関する参考文献
単行本
- 氣多雅子『ニヒリズムの思索』創文社、1999年
- 佐々木徹『西谷啓治 ―その思案への道標―』法蔵館、1986年。
- Waldenfels, Hans. Absolue Nichts: Zur Grundlegung des Dialoges zwischen Buddhismum und Christentum. Freiburg: Herder, 1976. English translation: Absolute Nothingness: Foundations for a Buddhist-Christian Dialogue.Trans. J. W. Heisig. New York: Paulist Press, 1980.
- Bowers, Russell H. Jr., Someone or Nothing: Nishitani’s “Religion and Nothingness” as a Foundation for Christian-Buddhist Dialogue. New York: Peter Lang, 1995.
論文集および雑誌特集
- 上田閑照編『情意における空 ―西谷啓治先生追悼―』創文社、1992年
- 京都宗教哲学会編『渓聲西谷啓治』上(回想篇)・下(思想篇)、燈影舎、1992・3年
- 『大乗禅』859号・西谷啓治研究、1996年
- 『大乗禅』871号・西谷啓治研究、1997年
- Unno, T., ed. The Religious Philosophy of Nishitani Keiji: The Encounter with Emptiness. Berkeley: Asian Humanities Press, 1989.
- The Eastern Buddhist New Series, Vol. XXV No. 1 (Spring 1992). In Memoriam Nishitani Keiji 1900-1990.
- Zen Buddhism Today, No. 14 (November 1997). Religion and the Contemporary World in Light of Nishitani Keiji’s Thought.
- Zen Buddhism Today, No. 15 (November 1998). Nishida’s Philosophy, Nishitani’s Philosophy, and Zen .
その他の研究論文(日本語のみ)
- 池上哲司「根源的主体性の哲学 ―西谷啓治―」常俊宗三郎編『日本の哲学を学ぶ人のために』世界思想社、1998年
- 大橋良介「「自他の回互えご」テーゼ ―西谷哲学あるいは「空の立場」と他者―」大橋良介著『悲の現象論 序説 ―日本哲学の六テーゼより―』創文社、1998年
- 佐々木徹「西谷哲学における詩と自然 ―構想力をめぐって―」日本哲学史フォーラム編『日本の哲学』第2号、昭和堂、2001年
- 氣多雅子「ニヒリズム超克の哲学」藤田正勝編『京都学派の哲学』昭和堂、2001年
- 藤田正勝「情意における空」竹内整一・古東哲明編『ニヒリズムからの出発』ナカニシヤ出版、2001年
- ブレット・デービス「西谷啓治における「退歩」 ―ニヒリズムを通して絶対的此岸へ―」細谷昌志編『「根拠」への探究 ―近代日本の宗教思想の山並み―』晃洋書房、2000年
- ブレット・デービス「宗教から政治へ、政治から宗教へ ―西谷啓治の転回ケーレ―」藤田正勝・卞崇道・高坂史朗編『東アジアと哲学』ナカニシヤ出版、2003年
- 堀尾孟 「逆対応と逆縁」、『上水内教育』第78号
- 堀尾孟「西谷先生の後期思想の課題と思索」、『大谷学報』第77巻 第3号、1998年
- 堀尾孟「ニヒリズムを通してのニヒリズムの超克 ―西谷啓治―」藤田正勝編『日本近代思想を学ぶ人のために』世界思想社、1997年
- 美濃部仁「空の場における自己 ―西谷啓治の哲学―」北陸宗教文化学会『北陸宗教文化』第11号、1999年
- 森哲郎「西谷啓治における<宗教と現代世界>」京都産業大学『世界問題研究所紀要』第15巻、1998年
- 森哲郎「西谷啓治における「世界」理解 ―切断と反復―」上田閑照・堀尾孟編『禅と近代世界』禅文化研究所、1998年
- 李向平「知識論・超越論の二重構造 ―西谷啓治の宗教哲学を中心として―」藤田正勝・卞崇道・高坂史朗編『東アジアと哲学』ナカニシヤ出版、2003年