略歴
明治3年10月18日、石川県金沢市本多町に生まれる。本名、鈴木貞太郎。石川県専門学校（のちの第四高等中学校）時代に、西田幾多郎と出会い、生涯の友となる。中途退学し、一時英語教師となるが、上京して、東京専門学校（のちの早稲田大学）、東京帝国大学に学ぶ。この頃か ら本格的に坐禅に取り組み始める。見性して、師釈宗演より「大拙」の居士号を受ける。明治30年に渡米し、足掛け12年間を過ごす。帰国後、学習院教授、 大谷大学教授などを歴任。日本と欧米を行き来しつつ、仏教の研究と普及に精力を注いだ。昭和41年7月12日、96歳で逝去。
概要および主要著作
「西洋の方と比べてみるというと、どうしても、西洋にいいところは、いくらでもあると……いくらでもあって、日本はそい つを取り入れにゃならんが、日本は日本として、或は東洋は東洋として、西洋に知らせなけりゃならんものがいくらでもあると、殊にそれは哲学・宗教の方面だ と、それをやらないかんというのが、今までのわしを動かした動機ですね。」（「也風流庵自伝」）ここでは大拙の問題意識が端的に語られている。実際、大拙は西洋の思想と言葉を深く学び、その上で自らの禅体験や仏教研究を基に、仏教（特に禅）を西洋へ伝えようとした。勉学と長年のアメリカ生活で身につけた英語で、仏典の英訳、（欧米での）仏教の講演などを行い、さらには史上初の英文による仏教研究雑誌“ EASTERN BUDDHIST ”を創刊、自らも多くの論文を発表した。これらの活動を通して、多くの人々の仏教への関心を喚起すると共に、西洋と東洋との対話の場を開く基礎を築いた。
大拙の思想は、心と体といったような一見相容れない二つのものが実は同一のものの両面であるという一元論的な立場に立っ ている。『金剛経』の研究から得た「即非の論理」は新たな同一性の論理を、日本宗教史の考察において提出された「日本的霊性」は二元を総合的に把握する立場を表したものである。その思索は、禅体験や仏教研究、そして親友・西田幾多郎との相互の影響を通じて培われたものであった。
- 『禅思想史研究』
- 『臨済の基本思想』
- 『金剛教の禅』
- 『般若の哲学と宗教』
- 『浄土系思想論』
- 『仏教の大意』
- 『無心ということ』
- 『日本的霊性』
- 『禅と日本文化』
テキスト
全集・選集
- 『鈴木大拙全集』全32巻、岩波書店、昭和48-46年
なお、平成11年より増補新版（全40巻）が随時刊行中。 - 『鈴木大拙選集』全13巻、春秋社、昭和27年
- 『続・鈴木大拙選集』全8巻、春秋社、昭和28-29年
- 『追巻・鈴木大拙選集』全5巻、春秋社、昭和31-33年
- 『新版 鈴木大拙禅選集』全11巻・別巻1、春秋社、平成4年
文庫・新書所収の作品
- 『日本的霊性』岩波書店（岩波文庫）、昭和47年
手に入りやすく、しかも大拙の思想が比較的平易に述べられている。はじめて大拙に興味を持った方にお勧め。
（なお、『日本の名著41 清沢満之 鈴木大拙』（中央公論社）にも収録。こちらには、文庫にはない第五篇が入っている。） - 上田閑照編『新編 東洋的な見方』岩波書店（岩波文庫）、平成9年
エッセイ集。 - 『一禅者の思索』講談社（講談社学術文庫）、昭和62年
各地での講演や小品をまとめたもの。 - 工藤澄子訳『禅』筑摩書房（ちくま文庫）、昭和62年
- 『禅とは何か（改版）』角川書店（角川ソフィア文庫）、平成11年
- 北川桃雄訳『禅と日本文化』岩波書店（岩波新書）、昭和15年
原文は英語。改版も出ているロングセラーの書。
最近、改版・新版として出版された作品
- 『無心ということ』大東出版社、平成12年
- 『禅の諸問題』大東出版社、平成12年
- 『禅と念仏の心理学的基礎』大東出版社、平成12年
- 『宗教経験の事実』大東出版社、平成2年
- 『東洋的一』大東出版社、平成2年
- 『仏教の大意』法蔵館、昭和56年
- 『妙好人』法蔵館、昭和56年
- 『浄土系思想論』法蔵館、平成11年
- 『鈴木大拙の世界』燈影舎（燈影撰書15)、平成元年
鈴木に関する参考文献
基本的な入門書
- 上田閑照・岡村美穂子編『鈴木大拙とは誰か』、岩波書店（岩波現代文庫）、平成14年
既刊の大拙の人と思想を伝える書物の中から抜き出した文章をコンパクトに新しく編集したもの。
人と生涯
- 上田閑照・岡村美穂子『思い出の小箱から 鈴木大拙のこと』、燈影舎（燈影撰書29）、平成9年
- 上田閑照・岡村美穂子『大拙の風景 鈴木大拙とは誰か』、燈影舎（燈影撰書30)、平成12年
- 秋月龍珉『世界の禅者―鈴木大拙の生涯』、岩波書店（同時代ライブラリー）、平成4年
- イースタンブディスト協会・西谷啓治編『回想 鈴木大拙』春秋社、昭和50年
- 岩倉政治『真人・鈴木大拙』、法蔵館、昭和61年
- 西村惠信『鈴木大拙の原風景』、大蔵出版、平成5年
なお、自叙伝として、「也風流庵自伝」「私の履歴書」（『鈴木大拙全集 第32巻』（旧版）など所収）がある。
学問と思想
- 『鈴木大拙の人と学問』（鈴木大拙禅選集 別巻）春秋社、平成13年
- 古田紹欽『鈴木大拙 その人とその思想』、春秋社、平成5年
- 久松真一・山口益・古田紹欽編『鈴木大拙―人と思想―』岩波書店、昭和46年
- 秋月龍珉『鈴木大拙の言葉と思想』講談社（講談社現代新書）、昭和42年（『秋月龍珉著作集7』（三一書房、昭和53年）所収）
- 秋月龍珉『鈴木禅学と西田哲学』春秋社、昭和47年（『秋月龍珉著作集8』（三一書房、昭和53年）所収）
- 上田閑照･堀尾 孟編集『禅と現代世界』、禅文化研究所、平成9年
西田幾多郎、鈴木大拙、久松真一、西谷啓治の四人の禅思想をめぐる論文集。 - 佐藤幸治「霊性と即非——鈴木大拙」（藤田正勝編『日本近代思想を学ぶ人のために』世界思想社、平成9年、pp.245-262）