東洋史学専修ホームページ 専修講義案内

時間割(令和六年前期)

1 8:45〜10:15
矢木 特殊講義
古松 特殊講義
箱田 演習Ⅲ
2 10:30〜12:00
石川 特殊講義
宮宅 特殊講義
箱田 特殊講義
小野寺 特殊講義
特殊講義
中砂 演習(院)
河上 特殊講義
3 13:15〜14:45
承 志 特殊講義
太田 特殊講義
吉本 演習Ⅰ
4 15:00〜16:30
中砂 特殊講義
村上 演習
吉本 特殊講義
5 16:45〜18:15
箱田 演習(院)
中砂 演習Ⅱ
吉本 演習(院)

※(学部)は学部生のみ、(院)は原則大学院生のみの科目。

講義内容【特殊講義】

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石川禎浩 中国近現代流行歌曲史

(授業の概要・目的)
「歌は世につれ、世は歌につれ」というように、流行歌は時々の世相を反映するだけでなく、近代国民国家や社会主義体制では、文化芸術政策や大衆向け宣伝活動といったある種の政治的使命を負わされることもあった。本講義では、20世紀100年の中国を対象に、近代的国家建設、革命運動、抵抗運動、政治運動、戦争などの社会変動の中から生まれた流行歌を中心に60曲ほどをとりあげ、音楽の時代背景や歌手、作曲家の活動、その時々の政治状況などを解説する。

(到達目標)
日ごろ耳にすることの少ない20世紀中国の歌曲を実際に鑑賞し、それら歌曲が映し出す清末、民国、人民共和国の社会体制や世相の変遷を総合的、感覚的に理解し、それを通して中国近現代史に対する理解を深める。また、聴覚系の芸術作品(楽曲、演劇、語りモノ)を歴史学の資料として扱う場合の技術を身につける。

(授業計画と内容)
1 ガイダンス(流行歌とは何か―日本との比較)
2 国民国家・国民文化の誕生と流行歌の発生(清末)
3 西洋音楽体系の導入(民国初期の学堂楽曲)
4 革命運動と音楽(国民革命時期―軍歌と革命歌)
5 民国国歌史(中国国民党と党歌、国歌)
6 商業文化と音楽の商品化(上海モダン)
7 ナショナリズムの高まりと救亡歌
8 抗日戦争期の中国歌曲(義勇軍行進曲)
9 人民共和国建国期の流行歌(宣伝と動員)
10 音楽家の使命―毛沢東の芸術論・音楽論
11 赤い音楽家たち(李劫夫、王双印)と毛主席詩歌・語録歌
12 改革・開放期と海外音楽の氾濫(テレサ・テン、侯徳健の位置)
13 価値観の多様化と流行音楽の衰退(民主化運動とロック)
14 ナショナリズムとメディアの変容、そして流行歌の行方、まとめ
15回 フィードバック

宮宅潔 中国古代制度史と出土文字史料

(授業の概要・目的)
近年中国古代史の研究に大きな影響を与えている新出史料、すなわち竹簡・木簡史料について概説する。出土地域ごとに発見史をたどりながら、主要な竹簡・木簡群を紹介し、それが歴史研究、特に制度史研究に与えたインパクトについて講義する。

(到達目標)
新出史料に関する知識を身につけ、そこからうかがえる古代社会の有様について理解を深め、古代史研究の基礎を確立する。

(授業計画と内容)
1.ガイダンス
2.中国簡牘史料の発見史
3.楚簡の概観
4.秦簡の概観
5.墓葬出土漢簡の概観
6.辺境出土漢簡の概観

ガイダンスの後、各単元を1~2回に分けて講義する。

中砂明徳 17世紀のイエズス会年報

(授業の概要・目的)
イエズス会の海外布教は17世紀初年に高潮を迎える。それを表すのが、現地からの年次報告をまとめた諸年報であり、とくにイタリアで多く刊行された。本授業では、17世紀のイタリア語年報を読み解き、イエズス会の布教の広がりを確認するとともに、年報が果たした役割について考察する。

(到達目標)
近世におけるカトリックの世界的展開について知ることができる。
イエズス会の出版物の性格について知ることができる。

(授業計画と内容)
1、導入
2、16世紀のイエズス会年報
3、二コラ・ピメンタのインド巡察書簡(1601.02年刊)
4、1603年日本年報(1605年刊)
5、布教報告集 ムガル・モノモタパ・ヴェルデ岬・マドゥライ(1615年刊)
6・7、日本・中国・ゴア・エチオピア年報(1621年刊)
8・9、エチオピア・マラバール・ブラジル・ゴア年報(1627年刊)
10、エチオピア年報(1628年刊)
11・12、エチオピア・中国年報(1629年刊)
13、日本年報(1632年刊)
14、まとめ
15、フィードバック

矢木毅 朝鮮史詳説(古代篇1)

(授業の概要・目的)
朝鮮半島に展開した諸部族・諸国家の歴史を概観し、古代における政治・社会の特質について考察する。漢文史料の読解能力を高めるとともに、東アジア世界(特に中国史)との関係にも留意しつつ、朝鮮の歴史への理解を深めることを目的とする。

(到達目標)
基本史料(漢文)を読解して平易な現代日本文で説明する能力を養う。また、その史料の背景となる政治や社会の特質を理解し、現代社会との対比において説明する能力を養う。

(授業計画と内容)
1.朝鮮史の舞台
2.衛氏朝鮮と楽浪郡
3.高句麗の建国
4.遼東の公孫氏政権
5.遼東の慕容氏政権
6.高句麗の遼東進出
7.百済の建国
8.加耶諸国と倭国
9.新羅の建国
10.新羅の建国(続き)
11.隋唐帝国と高句麗
12.百済の滅亡
13.高句麗の滅亡
14.高句麗の滅亡(続き)
15.まとめ(史料講読)

箱田恵子 清末中国における国際法の受容と外交

(授業の概要・目的)
清末中国における近代国際関係、とくに国際法の受容については、国際法関連書の翻訳や主権などの概念理解など、思想史研究が盛んに行われてきた。本講義では実際の外交交渉と国際法受容の関係を中心に考察を行い、清末中国における近代国際関係の受容の特徴を検討する。

(到達目標)
清末中国における対外関係や国際環境の変化について基本的な事項を理解する。あわせて、清末中国の外交において国際法がどのように理解され、利用されていたのかを学び、清末中国における国際法観や近代国際関係の受容の特徴について考察を深めることができる。

(授業計画と内容)
第1回 導入:清代の対外関係
第2回 近代国際法について
第3回 アヘン戦争時期の国際法翻訳
第4回 『万国公法』の翻訳
第5回 清朝による領事裁判権の要求
第6回 台湾出兵、在外公館設置と国際法
第7回 在外公館と国際法―駐米公使の場合
第8回 在外公使と国際法―駐英公使の場合
第9回 日清戦争後の変化
第10回 第1回ハーグ平和会議への参加とその影響
第11回 第2回ハーグ平和会議への参加とその影響
第12回 マカオ領域確定交渉(1)―歴史的経緯
第13回 マカオ領域確定交渉(2)―領海問題と国際法
第14回 まとめ
第15回 フィードバック

承志 マンジュ語『内国史院档』の研究

(授業の概要・目的)
マンジュ語『内国史院档』は、ダイチン=グルンの成立の歴史を研究する上で最も重要な原典史料であり、ジュシェン(女真)人のマンチュリア支配から中国本土支配への移行期の歴史を正確に把握するためにも必読の基本史料である。この授業では、マンジュ語の原典に基づいて文献解説と購読を行う。初回の授業では世界におけるマンジュ語史料の保存状況と研究の実態、必要な辞典類・目録・索引・史料集および主なマンジュ語史料のデジタルデータなどを紹介する。最終回ではまとめを行う。前期の3-14回の授業ではマンジュ語入門と基礎文法、史料の読解、参加者との質疑・討論を行う。

(到達目標)
・マンジュ語史料の研究方法を習得できる。
・マンジュ語の基礎的な文法を学ぶことができる。
・史料を読み解くことができるようになること。

(授業計画と内容)
第1回 イントロダクション
第2回 『内国史院档』の研究史とその内容
第3回~14回 『内国史院档』の読解、参加者との質疑・討論
第15回 まとめ

吉本道雅 戦国時代の歴史認識

(授業の概要・目的)
西周王朝の滅亡(771BC)と秦始皇帝の統一(221BC)に挟まれた549年間は今日一般に「春秋戦国時代」と称されている。『春秋経』が記述する時代、すなわち本来的な意味での春秋時代を前後と区分された一つの時代として扱うことは、前2世紀の公羊学派の言説に初見し、前4世紀後期の『孟子』に示唆されるが。前4世紀前中期の『左伝』や清華簡『繋年』にはなお見えない。本講義では、『左伝』『繋年』『孟子』を分析することで、前4世紀後期における歴史認識の急激な変容および、それをもたらした政治史的背景を考察する。

(到達目標)
先秦史研究の最新の知見、および中国古代文献の批判的分析の方法論を習得する。

(授業計画と内容)
以下の項目を逐次論ずる。
第1回~第2回 序論
第3回~第6回 『左伝』
第7回~第10回 『繋年』
第11回~第14回 『孟子』
第15回 結論
*フィードバック方法は授業中に説明する。

古松崇志 中国石刻史料の研究

(授業の概要・目的)
中国史研究において、石刻史料はきわめて重要な史料群である。本講義では、中国本土およびその周辺の石刻史料を取り上げ、歴史研究に利用するための手法を、実際に受講生が史料(京都大学人文科学研究所所蔵の拓本実物を含む)を読み解きながら学んでいく。

(到達目標)
漢語で書かれた中国石刻史料の史料としての特性を理解し、研究手法を学びとって、みずからの研究に活用できるようにする。

(授業計画と内容)
1.ガイダンス(1回)
2.石刻学・石刻研究史の概観(2~3回)
3.石刻史料へのアクセス(伝統的な石刻文献を含めた典籍文献、新出史料集、ウェブ上のデータベースなど)概観(2~3回)
4.石刻史料釈読(7~9回)
5.まとめ(1回)

※釈読する石刻史料は、担当者の専門分野の契丹(遼)・宋・金・元(モンゴル帝国)時代のものを中心に取り上げる予定だが、適宜受講生の関心に応じた史料を読むことも検討している。また、担当者が勤務する京都大学人文科学研究所所蔵の拓本を実見する機会を設けるほか、できるだけ拓影(拓本の写真)のあるものを用いるが、典籍文献(伝統的な石刻文献や地方志、文集など)のみに載せられているものも適宜取り上げる。
※基本的に以上の予定にしたがって講義を進めるが、回数など変更の可能性があることに留意されたい。

小野寺史郎 日本の近現代中国研究の歴史

(授業の概要・目的)
近代以来の日本の中国研究は、日本と中国それぞれの在り方の変遷と、それに伴う両国関係の変化から影響を受け、何度も大きな転換を迫られてきた。近現代史研究を中心に、その具体的な過程と、それぞれの時期に何が論点となったのかを、同時代の国際関係や日本の国内問題とも関連づけて検討する。

(到達目標)
東アジア、とくに中国の歴史と現状について、資料と先行研究にもとづいて考察する視座と方法を獲得し、批判的に理解する。

(授業計画と内容)
第1回 ガイダンス
第2回 明治時代の中国研究(1)
第3回 明治時代の中国研究(2)
第4回 大正時代の中国研究
第5回 昭和初期の中国研究
第6回 戦中の中国研究
第7回 戦後初期の中国研究
第8回 「長い1960年代」の中国研究(1)
第9回 「長い1960年代」の中国研究(2)
第10回 1970-1980年代の中国研究(1)
第11回 1970-1980年代の中国研究(2)
第12回 1990年代以降の中国研究
第13回 現在の中国研究
第14回 まとめ
第15回 フィードバック

辻正博 官制に見る唐宋変革

(授業の概要・目的)
古代日本にも多様な形で影響を与えた唐代の官制(『大唐六典』に示される官制。以下「『六典』官制」とよぶ)は8~10世紀にかけて大きく変貌する。この講義では、中国史上の一大変革期とされるこの時期の官制について、その変化のありさまを明らかにしたいと思う。当時の社会・経済の激変に対して官制が(後追いではあるが)いかに対応していったのかを認識することが目標である。

(到達目標)
唐から宋にかけて官制がいかなる変貌を遂げたのかを認識することにより、唐宋変革の実相を、その背景となった歴史的背景もふくめて総合的に理解する。

(授業計画と内容)
以下の各項目について、おおむね1~2週をめどに講義を進める。
なお、初回授業(ガイダンス)時に、学期の授業計画および講義で必要とされる諸事項について説明を行うので、必ず出席すること。
1.『六典』官制前史
(1)魏晋の官制―中央官制と地方官制
(2)開皇官制の成立―隋の文帝による官制整備
2.『六典』官制の成立
(1)唐初の官制―隋制との関係
(2)『六典』官制と『周礼』
 (a)『大唐六典』とその官制
 (b)則天武后と『六典』官制
(3)『六典』官制の成立―中央官制を中心に
3.使職と『六典』官制
(1)使職設置と地方統治の深化
(2)使職と『六典』官制―重複とすみ分け
4.唐末五代の官制―『六典』官制の形骸化
5.宋代の官制―元豊官制への道
(1)宋初の官制
(2)元豊の官制改革
6.まとめとフィードバック

太田出 近世中国における関羽信仰と王朝国家

(授業の概要・目的)
『三国志演義』で活躍する英雄の一人として有名な関羽は、死後“人”から“神”となり、関聖帝君という神霊として多くの人びとの篤い信仰を集めた。特に明清時代には関羽の霊験に関わる多くの霊異伝説が生み出され、王朝国家との関わりに関するものも少なくなかった。かかる史料を丁寧に読み込んでいくと、そこには“下からの”民衆のささやかな願望を見いだせるだけでなく“上からの”王朝国家による領域統合や権威調達といった政治的意図を読みとることも可能である。本授業では、関羽信仰を事例としながら、民間信仰と王朝国家がいかに結びついていたかを考察するとともに、霊異伝説という物語の読み方を体得してもらいたいと考えている。

(到達目標)
中国近世・近現代における民間信仰、王朝の権威の調達などについて基本的な知識を身につけるとともに、古典漢文や中国語史料の読み方・使い方を学び、自ら史料分析を行う能力を養う。

(授業計画と内容)
第1回:ガイダンス
第2回:領域統合と民間信仰
第3回:『三国志』『三国志演義』に見える関羽の義行と霊異伝説
第4回:唐朝から明朝における関羽の神格化
第5回:清朝と関聖帝君の「顕聖」(1)
第6回:清朝と関聖帝君の「顕聖」(2)
第7回:関帝廟という装置
第8回:清朝のユーラシア世界統合と関聖帝君(1)
第9回:清朝のユーラシア世界統合と関聖帝君(2)
第10回:関羽と白蓮教(1)
第11回:関羽と白蓮教(2)
第12回:清朝の版図・王権と関羽信仰(1)
第13回:清朝の版図・王権と関羽信仰(2)
第14回:国家と宗教
第15回:まとめ

河上麻由子 古代アジアの対外交渉と仏教

(授業の概要・目的)
この講義では、5世紀から10世紀のアジアの諸国間交渉において、仏教がどのような役割を果たしたのかを解説する。具体的には、仏教を鍵として行われた諸国間交渉(主として対中国交渉)を時代ごとに取り上げ、国際関係の推移とともに紹介する。それと同時に、仏教を鍵とする交渉を受け入れた側が、人々が仏教信仰に向けるエネルギーを王権に取り込むにあたって、どのような政策を実施していたのかを分析し、個々の交渉がいかなる政治的意味を持っていたのかを講義する。
以上を通じて、受講生が、アジアの国際交渉の多様なあり方を理解する手がかりを得るとともに、アジア(特に中国)の王権の重層性を知ることが本授業の目的である。

(到達目標)
5世紀から10世紀に、アジア諸国間で、仏教を鍵とする国家間交渉が行われていたことについて、基礎的な事項を正確に列記することができるようになる。
そのような交渉が行われる背景として、当時のアジア(特に中国)で、仏教が王権強化に果たした役割を、適切・具体的に説明することができるようになる。
本授業で得た知識を他アジア地域・時代に応用し、授業では取り上げなかったアジアの諸国間交渉について、独自に論述することができるようになる。

(授業計画と内容)

基本的に以下の予定にそって講義を進めるが、講義の進み具合や受講生の理解などに応じて、講義内容や回数を調整することがある。

1. 中華思想と仏教
2. 北朝の仏教
3. アジア諸国ー北朝の交渉と仏教
4. 南朝の仏教
5. アジア諸国ー南朝前半の交渉と仏教
6. アジア諸国ー南朝後半の交渉と仏教
7. 隋の皇帝の受菩薩戒
8. アジア諸国ー隋の交渉と仏教
9. 唐の皇帝の受菩薩戒(唐前半期)
10.唐の皇帝の受菩薩戒(唐後半期)
11.アジアの諸国王たちの受菩薩戒
12.アジア諸国ー唐の交渉と仏教(唐前半期)
13.アジア諸国ー唐の交渉と仏教(唐後半期)
14.アジアの諸国間交渉と僧侶
15.まとめと振り返り

演習内容【演習】

村上衛 在イギリス領事報告を読む

(授業の概要・目的)
19世紀初頭から第1次世界大戦までイギリスは覇権国家であり、中国の最も重要な交渉相手もイギリスであった。また、イギリスは開港直後から各開港場に領事を派遣、列強の中で在中国領事館の整備が最も進んでいた。したがって、開港から第1次世界大戦期までの中国に関わる外交文書はイギリスのものが最も充実している。
このうち領事報告はアヘン戦争後、中国の開港場に赴任したイギリス領事がイギリス公使に送付したものである。この領事報告は開港場におけるイギリスと清朝側の外交交渉の詳細のみならず、開港場とその周辺の政治・経済・社会について、中国側の史料では知り得ない貴重な情報を提供する。
本演習ではイギリス外交文書についての基本的な知識を身につけたうえで、中国近代の社会・経済に関する英文史料を精読する。英文史料を読むことによって、イギリス人などの外からの目を利用しつつ、中国近代社会経済史に対する理解を深める。

(到達目標)
イギリス外交文書の使用を通じて英文史料の扱い方、長所・短所などを理解し、中国近代史を研究するにあたって利用する史料の可能性を広げ、また史料操作能力の向上を図る。

(授業計画と内容)
1~2回 本演習のオリエンテーション。イギリス外務省、イギリスの公文書と外交文書、中国に関わるイギリス外交文書、在中国イギリス領事報告の解説を行う。
3回~14回 在中国イギリス領事の報告(FO228)を精読する。受講者が担当部分について音読・翻訳を行う。具体的には、内地流通に関わる商業紛争など、主として経済に関わる紛争を取り上げる。必要に応じてFO228に含まれている英文史料に対応する漢文史料も読む。なお、史料は非常に細かい内容のものが多いため、講義形式の解説を加え、史料を中国近代史の中に位置づけていく。
15回 読み進めてきた史料をもとに、総合的に討論する。

箱田恵子 『外交報』と関連史料の精読

(授業の概要・目的)
『外交報』は、日本の『外交時報』にならい、1902年に張元済らによって創刊された外交・国際問題の評論誌であり、日本をはじめ海外の外交・国際関係に関する論説、報道も多数翻訳されている。この授業では、『外交報』から厳復らの論説や海外の論説・報道の翻訳記事などを選んで精読する。海外の論説・報道の翻訳記事については、もとの文献と比較し、近代的概念の翻訳状況や語彙の変化についても考察する。後半は受講生が自らの関心によって文章を選択し、関連文献とあわせて読解を担当する。

(到達目標)
20世紀初めの漢文史料を正確に読解する能力を身につけるとともに、関連する文献を調査する方法を理解する。翻訳記事をもとの文献と照らしあわせて精読することで、近代中国における近代的概念の翻訳状況や清末知識人の認識、語彙の変化などについても理解する。

(授業計画と内容)
第1回 ガイダンス:史料の説明や担当について
第2回-第9回 『外交報』の中から重要な文章を選んで輪読(翻訳記事についてはもとの文献もあわせて読む)
第10回-第14回 受講生が選んだ記事を担当して読解(関連文献もあわせて読む)
第15回 フィードバック

中砂明徳 天啓年間の政争

(授業の概要・目的)
本授業では、明末の党争に関する重要な史料とされている金日升の『頌天臚筆』卷5.6に収録される「東林六君子」関係の文章を読む。「東林六君子」とは、天啓年間に朝政を掌握した宦官魏忠賢に抵抗して処刑ないし自死した人々である。政争の敗者であった彼らは崇禎年間に名誉回復される。本書を通じてその過程をみてゆく。

(到達目標)
1、白文テクストを読むことで、自力で句読する能力が身に付く。
2、明末の政治情勢を知ることができる。
3、政争のメカニズムを知ることができる。

(授業計画と内容)
進度については、受講生次第なので、確言できない。
第1回 史料の性質について説明
第2~9回 巻5(楊漣、左光斗、袁化中)
第10~14回 巻6(魏大中、周朝瑞、顧大章)
第15回 フィードバック

箱田恵子 薛福成『庸庵海外文編』

(授業の概要・目的)
薛福成は清末の洋務思想家、外交官として知られる。この授業では、彼がイギリスを中心に欧州に赴任していた時期の著作を集めた『庸庵海外文編』を輪読し、清末の知識人・外交官の海外認識や洋務思想について理解する。

(到達目標)
清末の漢文史料を正確に読解する能力を身につけるとともに、関連する歴史事象や史料を調査できるようになる。
清末知識人の海外認識と洋務思想について理解する。

(授業計画と内容)
第1回 薛福成とその著作について
第2回 清末文書の読解方法について(教員による読解)
第3回~第14回 『庸庵海外文編』の輪読
第15回 フィードバック

中砂明徳 『清史鏡鑑』

(授業の概要・目的)
21世紀にはじまった中国の清史編纂事業の副産物である『清史鏡鑑』を選読し、討論する。本シリーズは、この事業に関係する研究者たちの短文を集めて2006年に編集が開始された『清史参考』をもとに、一般向けに出版したもので、現在まで13冊が刊行されている。「真実の歴史をもって青年・大衆を教育することを目的とする」本シリーズを概観することで、現在の中国における公式的な清朝史観を把握することを目指す。

(到達目標)
1、中国の清史研究の現況を把握できる。
2、歴史研究のアクチュアリティについて考察を深めることができる。

(授業計画と内容)
1、国家清史編纂事業について
2、馬大正「清朝の辺境政策の現代への啓示」
3、「新修『清史』台湾関係人物伝稿」鄭成功、施琅、劉銘伝、丘逢甲
4、趙晨嶺「台湾版『清史』の得失」「趙爾巽の『清史稿』への貢献と限界」
     「台湾“国史館”と“新清史”」
5、李文海「辛亥革命百年の歴史観」「清朝滅亡百周年随想」
6、楊東梁「日本の釣魚島占領」「清代の中国と琉球」
7、戴逸「中日甲午戦争と世界史」王曉秋「甲午戦争と中華民族の覚醒」
8、秦暉「太平天国:伝統的な民変の特殊標本」
9、王汎森「清末の歴史記憶と国家の構築」
10、周永平「新疆統治の経験」
11、張世明「八旗衰退の原因」
12、楊益茂「満洲人の漢化」
13、劉鳳雲「“新清史”“内陸アジア”研究の視角について」
14、楊念群「漢化論と満洲特性論をこえて」
15、フィードバック

吉本道雅  『春秋左伝正義』

(授業の概要・目的)
十三経注疏の一つである『春秋左伝正義』を輪読する。

(到達目標)
漢文資料を文法的に正確に読解する能力を身につけるとともに、経学(中国古典注釈学)の基礎的な方法論・春秋時代史の研究資料としての活用法を理解する。

(授業計画と内容)
昨年度の続き。魯の年代記の形式を採る『春秋』と、その注釈書の形式を採る『左伝』は春秋時代を研究するための基本的な資料である。『春秋』『左伝』の成立過程については今なお活発な議論が進行中である。『左伝』には、西晋・杜預の『春秋経伝集解』、唐・孔頴達の『正義』が附されている。本演習では『正義』を精読することで、漢文を文法的に正確に読解する能力を養うとともに、『正義』の引用する唐代以前の諸文献を調査し、また『正義』の論理構成に習熟することによって、経学の基本的な方法論を理解する。また、先秦期の文献・出土資料を全面的に参照することによって、『春秋』『左伝』の成立過程についても考察し、先秦史研究の資料学的素養を身につける。
第1回~第15回 『春秋左伝正義』の輪読
*フィードバック方法は授業中に説明する。

吉本道雅  中国古代史史料学

(授業の概要・目的)
銭穆『先秦諸子繋年』を輪読し、関連史料・研究を批判的に検討する。

(到達目標)
中国古代史研究に関わる文献・出土文字資料・考古学的資料の運用能力を向上させる。

(授業計画と内容)
昨年度の続き。従来の戦国史(453-221BC)研究は、戦国後期の秦史に偏しており、戦国前・中期や六国については、資料の絶対量の乏しさに加えて、『史記』紀年の混乱が、歴史的推移の時系列的把握を困難にしてきた。1990年代以降の戦国楚簡の出現は、とりわけ思想史的研究を活発化させているが、かえって文献に対する研究の立ち後れを露呈させている。本演習では、銭穆『先秦諸子繋年』(香港中文大学、1956)を輪読し、関連史料・研究を批判的に検討することによって、中国古代史研究に関わる文献・出土文字資料・考古学的資料の運用能力を向上させる。
第1回~第15回 『先秦諸子繋年』の輪読
*フィードバック方法は授業中に説明する。