講義題目 2023年度

宗教学専修研究室 講義題目 2023年度

開講期・曜時限教員種別題目
前期月1杉村靖彦講義宗教学A(講義)
[授業の概要・目的]
宗教と哲学は、人間存在の根本に関わる問いを共有しながらも、歴史的に緊張をはらんだ複雑な関係を結んできた。その全体を視野に入れて思索しようとする宗教哲学という営みは、多面的な姿ととりながら歴史的に進展し、現代でも大きな思想的可能性を秘めている。この授業では、その今日までの変遷を通時的に追うことによって、宗教哲学という複雑な構成体について、受講者が一通りの見取図を得られるようにすることを目的とする。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教と哲学:根本の問いから考える。
第2回 ミュートスからロゴスへ:哲学の誕生
第3回 ソクラテス、プラトン、アリストテレス:哲学における神
第4回 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教:啓示と信仰の神
第5回 ヘブライズムとヘレニズムの出会い:キリスト教神学の成立
第6回 中世における神学と哲学:スコラ哲学と神秘主義
第7回 近世形而上学:デカルトと哲学的神学の流れ
第8回 宗教哲学の成立と展開(1):カントとシュライアマハー
第9回 宗教哲学の成立と展開(2):ヘーゲルとキルケゴール
第10回 「神の死」とニヒリズム:ニーチェ
第11回 哲学と宗教の「解体」的反復:ハイデガー
第12回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(1):西田幾多郎
第13回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(2):九鬼周造
第14回 アウシュヴィッツ以降の宗教哲学:レヴィナス
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期月1杉村靖彦講義宗教学B(講義)
[授業の概要・目的]
宗教哲学とは、哲学の一形態であると同時に、宗教研究のさまざまな道の一つでもある。この両面性とそれによる独自な意義が理解できるように、この授業では、宗教哲学と宗教学の歴史的関係を明らかにした上で、基本となる文献を幅広く選び、それぞれについて読解の手がかりとなるような解題を行っていく。それを通して、この分野における過去の重要な思索を自ら追思索し、宗教という事象を視野に入れた哲学的・学問的思索の一端に触れることが、この授業の目的である。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教哲学と宗教学(1):歴史的位置づけ
第2回 宗教哲学と宗教学(2):さまざまなアプローチ
第3回 宗教哲学と宗教学(3):現代的課題
第4回 パスカル『パンセ』:考える葦と隠れたる神
第5回 ヒューム『宗教の自然史』:経験主義的宗教論の嚆矢
第6回 カント『単なる理性の限界内の宗教』:根源悪論と宗教哲学
第7回 ニーチェ『道徳の系譜学』:ラディカルな宗教批判
第8回 ジェイムズ『宗教的経験の諸相』:宗教心理学の方法
第9回 西田幾多郎『善の研究』:日本の宗教哲学の出発点
第10回 モース『贈与論』:宗教社会学の豊饒な可能性
第11回 ハイデガー『存在と時間』:「現存在」と「死への存在」
第12回 ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』:静的宗教と動的宗教
第13回 エリアーデ『聖と俗』:宗教現象学の射程
第14回 ヨナス『アウシュヴィッツ以後の神概念』:神概念の解体的変容
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期火5伊原木大祐特殊講義災厄のレクチュール:防御反応としての理論
[授業の概要・目的]
本講義では、災厄(人災および天災)を被る側の視点に立って、そうした出来事を受け止める中で生じてきたいくつかの神学的/哲学的/宗教的解釈を考察する。古典的には「悪の問題(The Problem of Evil)」と呼ばれてきた主題系の一部と重なるものである。直接扱うわけではないが、その現代的バージョンの背後には「アウシュヴィッツ」の出来事が伏在している。
この授業で具体的に取り上げる解釈体系は、大別すると、「(反‐)神義論」・「ユダヤ的ヒューマニズム」・「呪術」の3つとなる。これらの筋立て自体、災厄に対する心理的な防衛装置として機能しているというのが、講義担当者によるさしあたりの仮説である。神学的な問いかけから宗教哲学的、さらには宗教学的な問題圏へと移行していくことで、この問題の広範な射程と現代的意義を検討してゆく。

[授業計画と内容]
初回は導入に当てる。第2回から本格的な議論に入ってゆくが、講義の性質上、各トピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.導入的概説【1週】
2.神義論とその批判~ライプニッツからヴィーゼルへ【4週】
3.「人間」への回帰~ユダヤ的ヒューマニズムの可能性【4週】
4.宗教と呪術~歴史的概観【2週】
5.呪術の役割と意義【3週】
6.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
後期火5伊原木大祐特殊講義ミシェル・アンリの哲学思想:社会批判と共同性
[授業の概要・目的]
本授業では、独創的な「生の現象学」を打ち立てた哲学者ミシェル・アンリ(1922-2002)の思想を扱う。アンリの著作群はすでにその初期から、あるタイプの宗教思想を考えるうえで有効な補助となる図式を提供してくれるものであり、今年度の講義はそのことを証するための予備的考察を意図している。ともすると概念的な思弁のようにも見えるこの思想は、実際には、いくつかの具体的な実践形態へと開かれていることを強調したい。
まずは、アンリが使用する基本タームを実際のテクストに沿って説明していく。そこでは「生」「内在」「超越」「脱立」「自己触発」「情感性」といった諸概念が俎上に載せられるだろう。
続いて、アンリの重視する「生」概念が個体性と強く結びついている点を確認した上で、それがいかにして社会理論へと展開していくのかを示す。
最後に、1980年代末に構想されていたとおぼしきアンリの共同体論を取り上げ、生の現象学の射程を拡張的な形で追理解する。

[授業計画と内容]
初回は導入に当てる。第2回から徐々に議論の核心へと近づいてゆくが、講義の性質上、各トピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.イントロダクション【1週】
2.アンリ現象学の捉え直し(1):現象論と超越のシステム【1週】
3.アンリ現象学の捉え直し(2):内在・自己触発・情感性【2週】
4.アンリ現象学の捉え直し(3):生における矛盾と統一【1週】
5.「野蛮」をめぐって:技術の問いと資本主義【3週】
6.「他者」理解をめぐって:シェーラーからアンリへ【3週】
7.「自己触発」をめぐって:新たな考察の糸口【3週】
8.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
前期水4杉村靖彦特殊講義告白・反省・自伝-「自己を語る」ことの宗教哲学
[授業の概要・目的]
「自覚」とは西田哲学の中心概念であり、かつ西田に始まる「京都学派」の哲学者たちが緩やかに共有する思考態度の表現である。だが、この語は元々「自己意識」に当たる西洋語の翻訳語として導入され、西田以前に一定程度使用されていたものであった。そのため、「アウグスティヌスの自覚」や「デカルトの自覚」といった表現が、違和感なく成り立ちえたのである。
だとすれば、京都学派の哲学を通して豊かに展開されたこの自覚概念を手引きとして、西洋哲学や宗教思想においてそれに対応する事象を見出し、それを自覚概念の光の下で新たに解釈し直すことも可能ではないか。本講義では、このような仕掛けを組みこんだ形で、宗教哲学を学ぶ上で重要な哲学・宗教思想の数々を年代順に通覧していくことによって、「自覚」論的観点から読み直された西洋哲学・宗教思想史の一端を提示してみたい。

[授業計画と内容]
以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2回程度の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展を直接反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマ自体も部分的には変更の可能性がある。)
1.1. 「私自身が私にとって大きな謎となってしまった」(アウグスティヌス):「告白」とは何をすることか。
1.2. 「告白」という主題の現代的諸変奏:ハイデガー、リクール、フーコー
2.1. 「哲学の開始そのものであるような働きの誕生」(ナベール):「反省」の深化と反転
2.2. 「反省」の直接経験の諸相:カントとフランス反省哲学の系譜
3.1. 「ありそうにもないもの、それはこの世では名前である」(デリダ):「自伝」〔=自己の-生を-記すこと(auto-bio-graphie)〕というアポリア
3.2.「自伝」のアポリアと生/死の交錯:デリダと宗教哲学
開講期・曜時限教員種別題目
後期水4杉村靖彦特殊講義西谷宗教哲学の研究(3)
[授業の概要・目的]
西谷啓治(1900-1990)は、西田、田辺の後の京都学派の第三世代を代表する哲学者であり、大乗仏教の伝統を換骨奪胎した「空の立場」から、「ニヒリズム以後」の現代の思索の可能性を追究したその仕事は、没後30年を経て国内外で多方面からの関心を引きつつある。しかし、その全体を組織的に考察した本格的な研究は、まだほとんどないと言ってよい。
本講義は、この西谷宗教哲学の全体を通時的かつ網羅的に研究し、今後の土台となりうるような組織的な理解を形成しようとするものである。それによって、今日の宗教哲学がそこから何を受けついでいけるかを、批判的に考究していくための拠点を手に入れることを目指す。
この研究は、二年前から各年度の後期の特殊講義として進めてきたものであり、今期の授業はその続きであるが、来年度以降もさらに何年かの間、同様の仕方で続けていく予定である。今年度は1930年代後半のアリストテレスへの取り組みから考察を始め、前期西谷の到達点としての「根源的主体性」の立場が、戦時中の歴史哲学や戦後のニヒリズム論によってどのように変容/変質していったかを追跡していきたい。

[授業計画と内容]以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり2~4回の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)
1.導入―西谷宗教哲学の受け取り直しのために
2.昨年度の授業の要約
3.真に「現(Da)」なる処-『アリストテレス論攷』の意義
4.『根源的主体性の哲学』―前期西谷宗教哲学の到達点
5.「近代の超克」の光と影―西谷の歴史哲学的考察
6.「虚無」と「無」の交錯―『ニヒリズム』と『神と絶対無』なお、最後の授業は、本学期の講義内容全体をめぐる質疑応答と議論の場とし、講義内容の受講者へのフィードバックを図る。
開講期・曜時限教員種別題目
前期月4津田謙治演習教父学の基本的研究を読むII/A
[授業の概要・目的]
この演習の目的は、初期キリスト教における教義史に関する古典的研究を読み、膨大な古代史料の中から教理的主題や歴史的背景、教父の特徴などを網羅的に概観するとともに、教義がどのような歴史的展開を示しているかを学ぶことである。この演習では、ドイツ語で書かれた後、英語や仏語に訳され、幅広く受容された教父研究のテキストを精読することによって、初期キリスト教思想研究に必要な文献読解力の向上を目指す。

[授業計画と内容]
今年度の前期では、H.R.ドロープナーの主要著作の一つである『教父学教本』を取り上げ、演習を行う。
Hubertus R. Drobner, Lehrbuch der Patrologie, 3te Auflage, Frankfurt am Main, 2011.
1.オリエンテーション
2.「教父」概念
3.教会教父
4.教父学
5.キリスト教文献の成立
6.口伝
7.使徒文献
8.聖書正典の形成
9.新約
10.旧約
11.福音
12.文学的類型
13.ヤコブ原福音書
14.トマス福音書
15.まとめと総括およびレポート等に関する解説
開講期・曜時限教員種別題目
後期月4津田謙治演習教父学の基本的研究を読むI/B
[授業の概要・目的]
この演習の目的は、初期キリスト教における教義史に関する古典的研究を読み、膨大な古代史料の中から教理的主題や歴史的背景、教父の特徴などを網羅的に概観するとともに、教義がどのような歴史的展開を示しているかを学ぶことである。この演習では、ドイツ語で書かれた後、英語や仏語に訳され、幅広く受容された教父研究のテキストを精読することによって、初期キリスト教思想研究に必要な文献読解力の向上を目指す。

[授業計画と内容]
前期に引き続き、H.R.ドロープナーの主要著作の一つである『教父学教本』を取り上げ、演習を行う。Hubertus R. Drobner, Lehrbuch der Patrologie, 3te Auflage, Frankfurt am Main, 2011.
1.オリエンテーション
2.使徒たちの手紙
3.ニコデモ福音書
4.使徒行伝
5.文学的類型
6.ペトロ行伝
7.パウロ行伝
8.書簡
9.文学的類型(書簡)
10.バルナバの手紙
11.黙示録
12.文学的類型(黙示録)
13.ヘルマスの牧者
14.シビュラの託宣
15.まとめと総括およびレポート等に関する解説
開講期・曜時限教員種別題目
前期火4伊原木大祐演習Georges Bataille, Théorie de la religionを読む
[授業の概要・目的]
本演習では、昨年度に続き、ジョルジュ・バタイユの宗教論『宗教の理論』(1974)を扱う。本書は、バタイユが1948年に(ヴァール主宰の)哲学コレージュで行った講演「宗教史概略」をもとに執筆した作品である。ほぼ完成していたにもかかわらず、生前に出版されることはなかった。「宗教」の理論と銘打ってはいるが、代表作『呪われた部分』とほぼ同時期に書かれていることもあり、バタイユの濃密な哲学的思索が展開されている。本書を宗教哲学的な視野のもとで読み進めつつ、参加者による思索と議論をより重視した演習としたい。本年度は、第一部Ⅱ「人間性と俗なる世界の形成」から再読する。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション
本演習で扱う著作およびその著者について知っておくべき最低限の事柄を説明する。
第2~14回
『宗教の理論』を途中から読み進めてゆく。進度は出席者の語学力に合わせて調整する。
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期火4伊原木大祐演習Max Scheler, Tod und Fortlebenを読む
[授業の概要・目的]
本演習では、マックス・シェーラーの遺稿「Tod und Fortleben」を読み進めてゆく。主著『倫理学における形式主義と実質的価値倫理学』とほぼ同時期に執筆されたと考えられている本論考は、死や死後生に対する宗教哲学的アプローチの模範的な実例として、今でもなお精読に値するといえよう。訳読と解釈を通じ、参加者一人一人が自身の思索を深めていくことが期待される。本年度は、全体の後半部分に当たる「Das Fortleben」の箇所を読む予定である。

[授業計画と内容]
第1~2回 イントロダクション
本演習で扱うテクストおよびその著者シェーラーについて知っておくべき最低限の事柄を紹介する。あわせて、テクスト前半部分の内容についても解説を行う。
第3~14回
「Tod und Fortleben」を全集版で1回に1~1.5頁のペースで読み進めてゆく。
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期水5杉村靖彦演習Stanislas Breton, “L’Ecole de Kyoto” および関連文献を読む
[授業の概要・目的]
スタニスラス・ブルトン(1912-2005)は、20世紀後半のフランスのユニークなカトリック哲学者であり、早くから現象学等の現代哲学を縦横に活用する一方で、新プラトン主義やキリスト教神秘主義の思想を深くとらえ直して独自の形而上学を展開した。アルチュセールの友人としても知られ、その招聘で一時パリの高等師範学校でも教えた。20世紀終盤における「フランス現象学の神学的転回」の源泉となった思想家でもある。
授業で扱うのは、このブルトンが1974年に来日し、京都で西谷啓治らが主催する「自然とは何か」と題されたシンポジウムに参加した際の印象を元にした論考「京都学派」(1995)である。「無(rien)」の問題を自らの形而上学に深く組みこむブルトンが、京都での経験と西谷から受けた印象を織り交ぜて自らの「京都学派」像を描いていくこのテクストは、そこに含まれる誤解や一面的な見解も含めて、独自な思索が躍動する間文化的な哲学的対話の貴重なドキュメントとなっている。
この演習では、ブルトン自身の思想が分かる他の文献や、このシンポジウムの議論を踏まえて西谷が著した論考「自然について」などの関連文献も参照しつつ、テクストを共に精読していきたい。

[授業計画と内容]
第1回-第2回 導入
テクストを読み進める上で必要な導入的説明を教員が行う。3回目以降の担当者を決める。第3回‐14回
ブルトンのテクストを精読していく。必要に応じて、関連文献から抜粋した箇所も合わせて読んでいく。各回の担当者は、担当箇所の訳出と内容要約に加え、疑問点の提示や問題提起などを含めた報告を行い、それを受けて教員がコメントと解説を行う。
第15回
著作全体を振り返り、教員との質疑応答や出席者間での討議を行う。
開講期・曜時限教員種別題目
後期水5杉村靖彦演習Paul Ricœur, La symbolique du mal, Première partie: Les symboles primaires を読む
[授業の概要・目的]
ポール・リクール『悪のシンボリズム』は、1960年に『有限性と罪責性』の第2分冊として刊行され、リクールを解釈学的哲学への転じさせた記念碑的著作である。同時にこの著作は、その大部分が聖書や諸文明の神話から渉猟した悪の象徴的・神話的表現の意味解釈に充てられており、リクールが自らの哲学的立場を更新するにあたって、従来の哲学の境界を踏み越え、宗教的表現の生成現場へと深く沈潜したことが見て取れる。
本演習では、この著作の第一部「一次的象徴:穢れ・罪・負い目」を材料とし、昨年度後期までに読んだ「罪」までの内容を踏まえて、「負い目」の章を精読していく。リクール解釈学の原点における哲学と宗教の交差の有りようを検討することによって、宗教哲学の諸可能性を探究するための材料としたい。

[授業計画と内容]
第1回-第2回 導入
テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。3回目以降の担当者を決める。
第3回‐第15回
リクール『悪のシンボリズム』第1部の「負い目」の章から重要箇所を抜粋し、1回当たり2頁程度のペースで精読していく。担当者の訳出や内容要約に教員が詳細なコメントを加えた後、それを元に出席者間でさまざまな角度からの検討や考察を行っていく。
開講期・曜時限教員種別題目
後期木2安部浩演習シェリングの自由論
[授業の概要・目的]
カント、フィヒテ、ヘーゲル等の哲人。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン等の楽聖。これらの巨人に伍して空前絶後の精神の運動を牽引しつつ、百花繚乱の「ゲーテの時代」を駆け抜けた早熟の天才がいた。F.W.J. シェリングである。
彼が遺した数多の著述・講義録の中でも、『人間の自由の本質』こそは蓋し最重要作の一つである。では本著作において、「哲学における最内奥の中心点」と自らが見做す「必然性と自由の対立」なる問題にシェリングはいかなる仕方で挑むのか。「ドイツ観念論の形而上学の頂点」(ハイデガー)と評される当該著作を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、自由、汎神論、悪、無底等をめぐる問題系の考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。

[授業計画と内容]
原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。ここに各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
以下、内容の梗概に続き、括弧内に教科書の頁番号を(また適宜、斜線を付して行番号をも)示す。
1. ガイダンスと前期の復習
2. 「悪の現実性の演繹・その3」(52/30-55/22)
3. 「悪の現実性の演繹・その4」(55/23-59)
4. 「悪の現実性の演繹・その5」(60-63/18)
5. 「悪の現実性の演繹・その6」(63/19-66/4)
6. 「神の自由・その1」(66/5-70/29)
7. 「神の自由・その2」(70/30-/75/10)
8. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その1」(75/11-79/17)
9. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その2」(79/18-82/8)
10. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(82/8-84/31)
11. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(84/32-87)
12. 辻村公一「無底ーシェリング『自由論』に於ける」
13. 薗田坦「無底・意志・自然ーJ.ベーメの意志-形而上学について」
14. 総括と総合討論
15. フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期金3景山洋平演習存在の問いの人間性とその歴史的布置:前期ハイデガーにおける言説実践の研究
[授業の概要・目的]
本演習では、Martin HeideggerのSein und Zeitおよび全集60巻Phaenomenologie des religioesen Lebens、全集19巻Platon:Sophistesの必要箇所を精読すると共に、当時の新約聖書研究(ブルトマンなど)やプラトン解釈(マールブルク学派など)の文献を考察する。Sein und Zeitの実存論的分析において現存在の本来性を「証し」する良心現象が「呼ぶ者」と「呼ばれる者」の関係により記述されるように、ハイデガーの現象学的存在論はある特定の対話構造に貫かれている。これは現象学を構成するロゴス概念が相互共同的な語りとされることと符合する。Sein und Zeitにおいて、いわば対話を通して、「問う者」としての現存在自身がおのれを見えるようにし、おのれを示すのである。しかるに、『存在と時間』に先だつ諸講義を検討すると、ハイデガーが新約聖書のパウロ書簡やアウグスティヌスの『告白』、そしてプラトンの対話篇がもつ言説実践としての性格に着目していたこと、しかもその際に同時代の聖書学やギリシア哲学研究を意識していたことが分かる。ここから、西洋哲学における言説実践の歴史的系譜が、「存在の問い」を担う人間性(現存在)が実存論的分析を通して語り出される際の<古層>となったことが予想される。この点を考察することは、現象学的存在論における人間概念の歴史的位置と含蓄の理解につながるだろう。本演習では、こうした見込みの元に、参加者とともにSein und Zeitの新たな解釈に取り組みたい。

[授業計画と内容]
毎回一名から数名の訳読と報告を行い、それにつづき教員が訳読とテクストの哲学的意義へのコメントを行い、その後は全員で討議する。以下に各回の講読予定を示すが、授業の進度はそのつど前後しうる。毎回2~3頁ほど講読する。
第一回 イントロダクション
第二回~三回 Sein und Zeit, 34節 「語り」概念を中心に
第四回 Sein und Zeit, 7節(B) 「ロゴス」概念を中心に
第五回~六回 Sein und Zeit, 56~57節 「良心」の呼び声の構造を中心に
第七回~九回 Phaenomenologie des religioesen Lebens およびブルトマンなど同時代の新約聖書およびアウグスティヌスの研究文献
第十回~十三回 Platon:Sophistes およびマールブルク学派やシュテンツェルなど当時のプラトン研究文献
第十四回:講読箇所に関する全体的考察
第十五回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期木2根無一行講読Gayatri Chakravorty Spivak, “Can the Subaltern Speak?”(1988)を読む 1
[授業の概要・目的]
エドワード・サイードらとともにポストコロニアル批評の代表者とされるGayatri Chakravorty Spivak(1942-)の主論文 “Can the Subaltern Speak?”(1988)を読む。デリダ『グラマトロジーについて』(1967)の英訳(1976)とそれに付した長大な序文によって世に知られることになったスピヴァクは本論文において、ポスト構造主義の哲学者たちによる主権的主体の脱中心化の言説になお残る西洋的知の覇権を炙り出していこうとする。スピヴァクによれば、自らを脱主体化する知識人たちが抑圧された者たちに自己を表象させようとするその仲介作業が暗黙裡に前提しているのは、「透明」な場所への自分たちの位置づけである。スピヴァクは政治経済的角度からの「表象」概念の検討を通して、そのような立ち位置から被抑圧者たちを主体と見なすその身振り自体がグローバルサウスのサバルタン(最貧層の被抑圧者(女性))の声を抹消していると批判していく。宗教哲学が特定の場所と時代を出自とする営みである以上、西洋的知の継承者でもある自分自身の立場性に極めて自覚的なスピヴァクのこうした議論は「現代日本(あるいは京都(大学))」で「宗教哲学」に携わる者に重層的で広い射程を持った問いを突きつけるだろう。私たちは何をどう考えていくべきなのか、本書を読みながらその手がかりを得たい。40頁ほどの小論だが、密度の濃い難解かつ悪文のテキストなので、受講者による活発な議論が期待される。

[授業計画と内容]
第1回 導入
本講読の進め方を確認し、著者とテキストに関する基本的な事柄の説明等を行う。第2~14回
テキストの読解と議論等。第15回
まとめ
開講期・曜時限教員種別題目
後期木2根無一行講読Gayatri Chakravorty Spivak, “Can the Subaltern Speak?”(1988)を読む 2
[授業の概要・目的]
前期に引き続き、エドワード・サイードらとともにポストコロニアル批評の代表者とされるGayatri Chakravorty Spivak(1942-)の主論文 “Can the Subaltern Speak?”(1988)を読む。デリダ『グラマトロジーについて』(1967)の英訳(1976)とそれに付した長大な序文によって世に知られることになったスピヴァクは本論文において、ポスト構造主義の哲学者たちによる主権的主体の脱中心化の言説になお残る西洋的知の覇権を炙り出していこうとする。スピヴァクによれば、自らを脱主体化する知識人たちが抑圧された者たちに自己を表象させようとするその仲介作業が暗黙裡に前提しているのは、「透明」な場所への自分たちの位置づけである。スピヴァクは政治経済的角度からの「表象」概念の検討を通して、そのような立ち位置から被抑圧者たちを主体と見なすその身振り自体がグローバルサウスのサバルタン(最貧層の被抑圧者(女性))の声を抹消していると批判していく。宗教哲学が特定の場所と時代を出自とする営みである以上、西洋的知の継承者でもある自分自身の立場性に極めて自覚的なスピヴァクのこうした議論は「現代日本(あるいは京都(大学))」で「宗教哲学」に携わる者に重層的で広い射程を持った問いを突きつけるだろう。私たちは何をどう考えていくべきなのか、本書を読みながらその手がかりを得たい。40頁ほどの小論だが、密度の濃い難解かつ悪文のテキストなので、受講者による活発な議論が期待される。

[授業計画と内容]
第1回 導入
本講読の進め方を確認し、著者とテキストに関する基本的な事柄の説明等を行う。
第2~14回
テキストの読解と議論等。
第15回
まとめ
開講期・曜時限教員種別題目
前期金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習宗教哲学基礎演習A
[授業の概要・目的]
宗教哲学の諸問題を考えるための基本となる文献を選び、宗教学専修の大学院生にも協力を仰ぎながら、それらを共に読み進み、問題を掘り起こし、議論を行う場となる授業である。授業への能動的な参加を通して、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。
宗教学専修の学部生の必修授業であるが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。

[授業計画と内容]
「宗教哲学」という分野の思索様式には、どうしても概説的紹介には馴染まない面がある。宗教の問いと哲学の問いがその源泉において交差連関し、しかもそれが人間が生きていくこと自体にまつわる問題と直結するということ、このことを見据えた学問的研究がいかなる形をとりうるかということは、その「実例」となる仕事の熟読を通して学んでいくしかない。
今期の授業では、京大宗教学専修の長い歴史の一端に触れてもらうという意味も込めて、これまでの専修担当教員や専修出身者の論考の内、専門的な議論に終始せずに広い視座で具体的な問題にも触れているものを数点取り上げ、毎回1点ずつ読んでいきたい。なお、実際に何を読むかは、履修者の関心によって調整することもありうるので、シラバスにはあらかじめ記さないことにする。
各回2,3人の担当者を決め、授業の前半は、担当者の内容要約および考察の発表に充てる。授業の後半では、教員の司会進行の下、発表内容をめぐって、チューターの大学院生たちも交えて、質疑応答と議論を行っていく。隔週授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。(詳細は変更の可能性あり)
1. オリエンテーション
2. 論考1についての発表と議論
3. 論考2についての発表と議論
4. 論考3についての発表と議論
5. 論考4についての発表と議論
6. 論考5についての発表と議論
7. 総括
開講期・曜時限教員種別題目
後期金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習宗教哲学基礎演習B
[授業の概要・目的]
宗教哲学の基本文献を教師とチューター役の大学院生の解説を手がかりに読み進めていくことで、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。4回生以上の宗教学専修在籍者にとっては、卒論の中間発表の場ともなる。
宗教学専修の学部生を主たる対象とするが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。

[授業計画と内容]宗教哲学の基本文献といえる著作や論文を選んで各回の授業に割り振り、事前に出席者に読んできてもらう。そして、毎回チューター役の大学院生の解説を踏まえて、教員の司会進行の下で、質疑応答と議論を行っていく(その際、履修者には特定質問者の役割を少なくとも1回は担当してもらう)。また、卒論の中間発表の際には、論述の仕方や文献の扱い方なども指導し、論文の書き方を学ぶ機会とする。
隔週の授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。なお、どのような文献を取り上げるかは、前期の「宗教哲学基礎演習A」の様子を見て決めることにする。それによって、各回で取り上げる文献の種類も、以下の記したものとは異なる可能性もある。
第1回  オリエンテーション・卒業論文の中間発表
第2回  宗教哲学の基本文献(近代フランス)の読解・解説・考察
第3回  宗教哲学の基本文献(近代ドイツ)の読解・解説・考察
第4回  宗教哲学の基本文献(近現代英米)の読解・解説・考察
第5回  宗教哲学の基本文献(現代フランス)の読解・解説・考察
第6回  宗教哲学の基本文献(現代ドイツ)の読解・解説・考察
第7回  宗教哲学の基本文献(京都学派の哲学)の読解・解説・考察
開講期・曜時限教員種別題目
通年金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習Ⅱ宗教学の諸問題
[授業の概要・目的]
演習参加者が、宗教学の諸問題のなかで各人の研究するテーマに即して発表を行い、その内容をめぐって、全員で討論する。討議のなかで、各人の研究を進展させることが目的である。

[授業計画と内容]
参加者が順番に研究発表を行い、それについて全員で討論する。各人の発表は2回にわたって行う。即ち、発表者は1時間以内の発表を行い、続いてそれについて討論する。発表者はその討論を受けて自分の発表を再考し、次回に再考の結果を発表して、それについてさらに踏み込んだ討論を行う。したがって、1回の授業は前半と後半に分かれ、前半は前回発表者の2回目の発表と討論、後半は新たな発表者の1回目の発表と討論となる。
第1回 オリエンテーション、参加者の発表の順番とプロトコールの担当者を決定。
第2回ー7回  博士課程の院生による発表と全員での討論。
第8回-15回 修士課程の院生による発表と全員での討論。
開講期・曜時限教員種別題目
前期集中西村明特殊講義宗教学的慰霊論の検討
[授業の概要・目的]
慰霊・追悼と言えば靖国問題に焦点化されがちである。しかし、宗教学的な視点から見れば、そうした国家と宗教をめぐる政治的論点ばかりではなく、生者にとって死者がどのような存在であるのか、死者をめぐる記憶が生者の現在や未来にどのように関わるのかという問いも欠かせない。こうした問いの解明のためには、諸宗教におけるそれぞれの教義に照らして導かれるような意味づけにとどまらず、特定の宗教伝統には必ずしも位置付けられないような局所的・個人的創意など、多様な言説や諸実践を視野に入れる必要があろう。この講義では、戦後日本における具体的な慰霊の諸事例を踏まえながら、上記の問いに迫ってみたい。

[授業計画と内容]
第1回 ガイダンスという名の宗教学出門
第2回 死者をめぐる記憶と儀礼
第3回 シズメとフルイ
第4回 近現代日本の戦争死者慰霊
第5回 長崎における原爆慰霊の展開
第6回 永井隆の浦上燔祭説
第7回 死してなお動員中の学徒たち
第8回 無縁空間の可能性
第9回 遺骨収集と宗教界
第10回 遺族・戦友にとっての遺骨収集・戦地慰霊
第11回 サードパーティーの慰霊論
第12回 記憶の洋上モード
第13回 戦争体験と宗教体験
第14回 ヴァナキュラー宗教としての慰霊
第15回 総括とディスカッション
開講期・曜時限教員種別題目
前期集中中島隆博特殊講義日本の近代思想を読み直す 哲学
[授業の概要・目的]
日本の近代思想を、哲学者の言説をたどりながら、明治から平成に至るまで通観します。具体的には、中島隆博『日本の近代思想を読み直す 哲学』(東京大学出版会、2023年)、とりわけその「資料編」を一緒に読みながら、日本近代哲学の可能性と限界を考えてみたいと思います。

[授業計画と内容]
第1回 日本哲学の系譜学
第2回 二つの啓蒙ーー福沢諭吉と中江兆民
霊魂不滅論争
第3回 東京学派の哲学
第4回 近代日本における中国哲学
近代日本におけるインド哲学
第5回 京都学派の礎ーー西田幾多郎
第6回 帝国日本を支える論理ーー田辺元
第7回 フィロロジーの行方ーー和辻哲郎
偶然性と未来への志向ーー九鬼周造
第8回 ディアスポラの哲学ーー三木清
マルクス主義哲学ーー戸坂潤
第9回 東北大学で展開した哲学
第10回 戦後民主主義ーー丸山眞男
第11回  戦後マルクス主義哲学ーー梅本克己
経験と思想ーー森有正
第12回 神秘についてーー井筒俊彦
立ち現われ一元論ーー大森荘蔵
第13回  共同主観性ーー廣松渉
あわいの哲学ーー坂部恵
第14回  装飾的思考ーー北川東子
「自分」という謎ーー池田晶子
第15回 まとめ