講義題目 2024年度

宗教学専修研究室 講義題目 2024年度

開講期・曜時限教員種別題目
前期月1杉村靖彦講義宗教学A(講義)
[授業の概要・目的]
宗教と哲学は、人間存在の根本に関わる問いを共有しながらも、歴史的に緊張をはらんだ複雑な関係を結んできた。その全体を視野に入れて思索しようとする宗教哲学という営みは、多面的な姿ととりながら歴史的に進展し、現代でも大きな思想的可能性を秘めている。この授業では、その今日までの変遷を通時的に追うことによって、宗教哲学という複雑な構成体について、受講者が一通りの見取図を得られるようにすることを目的とする。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教と哲学:根本の問いから考える。
第2回 ミュートスからロゴスへ:哲学の誕生
第3回 ソクラテス、プラトン、アリストテレス:哲学における神
第4回 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教:啓示と信仰の神
第5回 ヘブライズムとヘレニズムの出会い:キリスト教神学の成立
第6回 中世における神学と哲学:スコラ哲学と神秘主義
第7回 近世形而上学:デカルトと哲学的神学の流れ
第8回 宗教哲学の成立と展開(1):カントとシュライアマハー
第9回 宗教哲学の成立と展開(2):ヘーゲルとキルケゴール
第10回 「神の死」とニヒリズム:ニーチェ
第11回 哲学と宗教の「解体」的反復:ハイデガー
第12回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(1):西田幾多郎
第13回 日本の宗教哲学と仏教的伝統(2):九鬼周造
第14回 アウシュヴィッツ以降の宗教哲学:レヴィナス
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期月1杉村靖彦講義宗教学B(講義)
[授業の概要・目的]
宗教哲学とは、哲学の一形態であると同時に、宗教研究のさまざまな道の一つでもある。この両面性とそれによる独自な意義が理解できるように、この授業では、宗教哲学と宗教学の歴史的関係を明らかにした上で、基本となる文献を幅広く選び、それぞれについて読解の手がかりとなるような解題を行っていく。それを通して、この分野における過去の重要な思索を自ら追思索し、宗教という事象を視野に入れた哲学的・学問的思索の一端に触れることが、この授業の目的である。

[授業計画と内容]
以下のテーマについて授業を行っていく(細部は変更の可能性あり)。
第1回 宗教哲学と宗教学(1):歴史的位置づけ
第2回 宗教哲学と宗教学(2):さまざまなアプローチ
第3回 宗教哲学と宗教学(3):現代的課題
第4回 パスカル『パンセ』:考える葦と隠れたる神
第5回 ヒューム『宗教の自然史』:経験主義的宗教論の嚆矢
第6回 カント『単なる理性の限界内の宗教』:根源悪論と宗教哲学
第7回 ニーチェ『道徳の系譜学』:ラディカルな宗教批判
第8回 ジェイムズ『宗教的経験の諸相』:宗教心理学の方法
第9回 西田幾多郎『善の研究』:日本の宗教哲学の出発点
第10回 モース『贈与論』:宗教社会学の豊饒な可能性
第11回 ハイデガー『存在と時間』:「現存在」と「死への存在」
第12回 ベルクソン『道徳と宗教の二源泉』:静的宗教と動的宗教
第13回 エリアーデ『聖と俗』:宗教現象学の射程
第14回 ヨナス『アウシュヴィッツ以後の神概念』:神概念の解体的変容
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期火5伊原木大祐特殊講義神秘体験の宗教哲学
[授業の概要・目的]
西谷啓治によって「勝義における宗教哲学の祖」とされたF・シュライアマハーは、絶対者との間で成立する宗教体験を「絶対依存の感情」という言葉で表現した。のちにR・オットーはこの感情を彼が「被造物感情」と呼ぶものへと延長し、宗教体験(聖性の体験)の特性を哲学的方法によって再考している。これらの宗教哲学的思考によって捉えられたものは、いわゆる「神秘家」たちが内的に体験してきたものと符合する。
本講義では、神秘体験という「えもいわれぬ」体験をいかにして哲学者たちが思考し、言語化し、場合によっては「変形」してきたかを追跡する。具体的な内容としては、まず前半部で、20世紀に入って登場したいくつかの哲学思想による神秘体験の説明を概観し、その意味内実を整理する。後半部では、哲学的思索を介した神秘体験の言語化という観点からA・ショーペンハウアーの思想を取り上げ、その宗教哲学的な解釈を試みる。

[授業計画と内容]
初回は導入に当てる。第2回から本格的な議論に入ってゆくが、講義の性質上、各トピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.導入的概説【1週】
2.神秘体験への種々の見方~20世紀前半の宗教思想から【3週】
3.神秘主義の批判的考察【2週】
4.意志説の哲学的前提と宗教的含意【3週】
5.世界認識の倫理的価値【2週】
6.意志否定の積極的意義【3週】
7.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
後期火5伊原木大祐特殊講義ミシェル・アンリの哲学思想:宗教的なものへの問い
[授業の概要・目的]
本授業では、前年度に続き、独創的な「生の現象学」を打ち立てた哲学者ミシェル・アンリ(1922-2002)の思想を扱う。アンリの著作群はすでにその初期から、あるタイプの宗教思想を考えるうえで有効な補助となる図式を提供してくれるものであり、今年度の講義はそのことを実証するための考察を意図している。本題に入る前に、アンリが使用する基本タームを実際のテクストに沿って説明していく。そこでは「生」「内在」「超越」「脱立」「自己触発」「情感性」「共パトス」といった諸概念が俎上に載せられる。そのうえで、1980年代末に着手した共同体論を背景にアンリが構想する「キリスト教哲学」の根本問題に取り組む。なかでも端緒となる著作『C’est moi la vérité』(1996)の解釈を通じて、アンリ宗教論の核心部分へとアプローチする。

[授業計画と内容]
初回は導入に当てる。第2回から徐々に議論の核心へと近づいてゆくが、講義の性質上、各トピックに対して【 】で指示した週数を充てる。各々を論じるのに時間が足りない場合は、問題を深く掘り下げてゆく目的で、週数を調整・変更する可能性がある。
1.イントロダクション【1週】
2.アンリ現象学の捉え直し(1):脱立的現象論【1週】
3.アンリ現象学の捉え直し(2):内在と情感性【2週】
4.アンリ現象学の捉え直し(3):アフェクトと共同体【2週】
5.『現出の本質』における宗教論的モチーフの再考【2週】
6.『われは真理なり』の基本前提:自己触発論の深化【3週】
7.『われは真理なり』に依拠した宗教哲学の展開【3週】
8.フィードバック【1週】
開講期・曜時限教員種別題目
前期水4杉村靖彦特殊講義「救い」の問題とその宗教/哲学的展開
[授業の概要・目的]
私たちをとりまく種々の苦や悪からの「救い」とその道筋を言説化する「救済論(soteriology)」というのは、古来さまざまな宗教的伝統が提供してきたものであるが、同時にプラトンの語る「魂全体の向け変え」以来、種々の哲学的企てにおいて、「哲学による救い」と呼びうる事柄が繰り返し追究されてきた。そしてこの二つの流れはさまざまな仕方で交差しあい、私たちの「救い」の希求に対して応答してきた。
この歴史的蓄積は、今日の苦や悪の経験に対してどのような意味をもちうるだろうか。この問題にかんする宗教哲学的考察の一端として、本講義では、ユダヤ・キリスト教のメシアニズムと仏教における浄土思想の流れをたどった上で、それらを取り込んで独自な哲学的思索を展開したものとして、ローゼンツヴァイク、ベンヤミン、レヴィナスなどの20世紀のユダヤ系哲学者たちと、田辺元の「懺悔道としての哲学」以来武内義範や長谷正當へと続く京都学派系列の浄土教哲学とを取り上げ、両者を行き来しつつ論じてみたい。

[授業計画と内容]
以下の諸項目について、一項目あたり2~3回程度の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展を直接反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマ自体も変更の可能性がある。)
1.「救い」の問いとその現在-導入として      (3回)
2.メシアニズムと浄土仏教-「救済論」としての比較 (3回)
3.「哲学による救い」とその系譜          (3回)
4.20世紀のユダヤ系哲学におけるメシアニズム    (3回)
5.京都学派の哲学的伝統における浄土思想      (3回)
開講期・曜時限教員種別題目
後期水4杉村靖彦特殊講義西谷宗教哲学の研究 (4)
[授業の概要・目的]
西谷啓治(1900-1990)は、西田、田辺の後の京都学派の第三世代を代表する哲学者であり、大乗仏教の伝統を換骨奪胎した「空の立場」から、「ニヒリズム以後」の現代の思索の可能性を追究したその仕事は、没後30年を経て国内外で多方面からの関心を引きつつある。しかし、その全体を組織的に考察した本格的な研究は、まだほとんどないと言ってよい。
本講義は、この西谷宗教哲学の全体を通時的かつ網羅的に研究し、今後の土台となりうるような組織的な理解を形成しようとするものである。それによって、今日の宗教哲学がそこから何を受けついでいけるかを、批判的に考究していくための拠点を手に入れることを目指す。
この研究は、3年前から各年度の後期の特殊講義として進めてきたものであり、今期の授業はその続きであるが、来年度以降も同様の仕方で続けていく予定である。今年度は、前期西谷の到達点としての「根源的主体性」の立場を戦時中の歴史哲学・政治哲学的論考との関係において再検討した上で、それが戦後のニヒリズム論によってどのように変容/変質していったかを追跡していきたい。

[授業計画と内容]
以下の諸テーマについて、一つのテーマ当たり1~4回の授業をあてて講義する。
(「特殊講義」という、教員の研究の進展をダイレクトに反映させることを旨とする授業であるので、1回ごとの授業内容を細かく記すことはしない。また、以下の諸テーマにしても、細部については変更の可能性がある。)
1.導入―西谷宗教哲学の受け取り直しのために(1回)
2.昨年度の授業の要約           (2回)
3.「根源的主体性」と「近代の超克」―前期西谷宗教哲学の批判的考察(4回)
4.「虚無」と「無」の交錯―『ニヒリズム』と『神と絶対無』(4回)
5.「空の立場」の形成―1950年代の西谷 (4回)

開講期・曜時限教員種別題目
前期月5津田謙治特殊講義初期キリスト教教理史I/A
[授業の概要・目的]
この講義の目的は、ニカイア公会議(325年)以前までの初期キリスト教の中で形づくられた教理の発展の歴史を、個々の主題に沿って提示することにある。教理とは、教会の中で唱えられたキリスト教の教えであるが、最初期のキリスト教の時代から教説の正統性をめぐって様々な問題が生じ(例えば、一神教やキリスト論の問題など)、その都度それらに対処することによって教理が形成されてきた。本講義では、キリスト教とユダヤ思想や諸哲学との間にあった緊張関係に目を向けつつ、教父たちが形成した教理や諸概念を分析する。

[授業計画と内容]
本年度後期のテーマは、「初期キリスト教教理史」である。初回のオリエンテーションに続いて、次のような項目について、講義が進められる。一回の講義で一つの項目が取り上げられる。
1.オリエンテーション
2.キリスト教の教父たち
3.ユダヤ教とキリスト教
4.ヘレニズムのユダヤ教
5.キリスト教を取り巻く諸宗教
6.古代哲学とキリスト教
7.新プラトン主義とキリスト教
8.グノーシス思想
9.信仰の原則と教理
10.最初期キリスト教の教理的規範
11.2世紀後半以降の教理的規範
12.3世紀以降の教理的規範
13.権威としての教父
14.旧約聖書
15.まとめと総括およびレポート等に関する解説
開講期・曜時限教員種別題目
後期木2秋富克哉特殊講義西谷啓治の「空」の立場 - ハイデッガーとの照応 
[授業の概要・目的]
西谷啓治(1900-1990)における「空」の立場の確立と展開にとって、ハイデッガー(1889-1976)との対決は決定的であった。本講義では、西谷宗教哲学の展開の過程を、ニーチェ解釈に基づくニヒリズムの本質究明と超克という主題を出発点に、ハイデッガー思想との照応のもと考察する。戦後の『ニヒリズム』(1949年)から『宗教とは何か』(1961年)、およびその後のテクストをもとに、「世界」「歴史」「言葉」「技術」といった事象に接近することを試みる。

[授業計画と内容]
およそ以下のような内容を順次扱うが、変更の可能性もある。
1.ガイダンス:趣旨説明と全体の展望
2.『ニヒリズム』(1)ニヒリズムと歴史
3.『ニヒリズム』(2)ニーチェ
4.『ニヒリズム』(3)ハイデッガー
5.『ニヒリズム』(4)「われわれ」とは誰か
6.『宗教とは何か』(1)基本的立場
7.『宗教とは何か』(2)宗教と科学
8.『宗教とは何か』(3)虚無と空、現代技術
9.『宗教とは何か』(4)空の立場
10.『宗教とは何か』(5)時と歴史
11.『禅の立場』(1)自己と心、根本気分
12.『禅の立場』(2)世界と物
13.「空と即」(1)詩的言語とロゴス(理)
14.「空と即」(2)形象と構想力
15.総括:残される課題とフィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期火4伊原木大祐演習Jean-Paul Sartre, Esquisse d’une théorie des émotionsを読む
[授業の概要・目的]
本演習では、ジャン=ポール・サルトルが1939年に発表した論考『情動論素描』を扱う。本書は、サルトルが現象学に強い関心を示していた時期の哲学的論考であり、フッサールとハイデガーの影響下にありつつも、のちの『存在と無』(1943)に結実するような独自の思想世界を垣間見せている小著である。今年度は前半部分をスキップし、最後の章にあたる「現象学的理論の素描」を中心に読んでいく予定である。これはフランス語圏における「感情の現象学」の試みの嚆矢にあたるものであり、その道具立ての古さは否めないものの、サルトルらしい才気に満ち溢れており、よく読めば今でも刺激的なアイデアが見いだされる。授業では、ディスカッションを重視したうえでの精読を目指す。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション
本演習で扱う著作およびその著者について知っておくべき最低限の事柄を説明する。
第2~14回
『情動論素描』を読み進めてゆく。進度は出席者の語学力に合わせて調整する。
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
後期火4伊原木大祐演習Viktor E. Frankl, . . . Trotzdem Ja zum Leben sagen を読む
[授業の概要・目的]
本演習では、ヴィクトール・E・フランクルの著作『. . . Trotzdem Ja zum Leben sagen』を扱う。この書物は、本邦でも『夜と霧(原題:強制収容所におけるある心理学者の体験)』で知られるフランクルが、強制収容所での体験を経て解放された翌年に行った3つの講演を収めたものである。主要なテーマは「生きる意味と価値」であり、20世紀前半の「生の哲学」や「実存哲学」の観点から、また昨今議論されることの多い「人生の意味」論といった観点から、あるいは「神の死」以後の現代宗教哲学という観点からも有益な示唆に富んでおり、論じるに値する多くの問題が伏在している。テクストの精読を通じて、参加者一人一人が自身の思索を深めていくことが期待される。今年度は、フランクル思想の要点が詰まった第一講演を中心に読み進めてゆく。

[授業計画と内容]
第1回 イントロダクション
本演習で扱うテクストおよびその著者フランクルについて知っておくべき最低限の事柄を紹介する。
第2~14回
「 . . . Trotzdem Ja zum Leben sagen」を1回2~3頁程度のペースで読み進めてゆく。
第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期水5杉村靖彦演習Paul Ricœur, La symbolique du mal を読む
[授業の概要・目的]
ポール・リクール『悪のシンボリズム』は、1960年に『有限性と罪責性』の第2分冊として刊行され、リクールを解釈学的哲学への転じさせた記念碑的著作である。同時にこの著作は、その大部分が聖書や諸文明の神話から渉猟した悪の象徴的・神話的表現の意味解釈に充てられており、リクールが自らの哲学的立場を更新するにあたって、従来の哲学の境界を踏み越え、宗教的表現の生成現場へと深く沈潜したことが見て取れる。
この著作は二部構成であるが、本演習では、その第一部「一次的象徴:穢れ・罪・負い目」の「結論」と、第二部「始まりと終わりの〈神話〉」の「序論」を通読する。リクール解釈学の原点における哲学と宗教の交差の有りようを検討することによって、宗教哲学の諸可能性を探究するための材料としたい。

[授業計画と内容]
第1回-第2回 導入
 テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。
第3回‐第15回
 リクール『悪のシンボリズム』第一部「結論」と第二部「序論」の全体を、1回当たり2頁程度のペースで精読していく。出席者による訳出や内容要約に教員が詳細なコメントを加えた後、それを元に全員でさまざまな角度からの検討や考察を行っていく。
開講期・曜時限教員種別題目
後期水5杉村靖彦演習西田幾多郎とMaine de Biranの交差的読解
[授業の概要・目的]
小論「フランス哲学についての感想」(1936)に記されているように、西田は「フランス哲学独特な内感的哲学」に強い共感を寄せている。この共感が組織的な考察として展開されることはほとんどなかったが、中期西田哲学の転機を画する重要著作『無の自覚的限定』(1932)では、自らの哲学的立場を更新するための道案内の一人として、メーヌ・ド・ビランの思索を集中的に取り上げ、「感じる」こと自体に内属する知から展開する哲学のあり方を探っている。西田はビランの「内感的哲学」にどこまで同行し、どこで袂を分かつのか。西田のテクストと『心理学の基礎(Essai sur les fondements de la psychologie)』(1812)などのビランのテクストを交差させて読み進めることで、双方の思索の特徴とその可能性を新たな仕方で理解することを目指したい。

[授業計画と内容]
第1回-第2回 導入
 テクストを読み進める上で必要な予備知識の解説を行う。
第3回‐第15回
 『無の自覚的限定』等で西田がメーヌ・ド・ビランに言及している箇所を精読するとともに、それに対応するメーヌ・ド・ビランの論述を『心理学の基礎』等から抜粋して訳読していく。出席者による訳出や内容要約に教員が詳細なコメントを加えた後、それを元に全員でさまざまな角度からの検討や考察を行っていく。
開講期・曜時限教員種別題目
前期木2安部浩演習シェリングの自由論
[授業の概要・目的]
カント、フィヒテ、ヘーゲル等の哲人。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン等の楽聖。これらの巨人に伍して空前絶後の精神の運動を牽引しつつ、百花繚乱の「ゲーテの時代」を駆け抜けた早熟の天才がいた。F.W.J. シェリングである。
 彼が遺した数多の著述・講義録の中でも、『人間の自由の本質』こそは蓋し最重要作の一つである。では本著作において、「哲学における最内奥の中心点」と自らが見做す「必然性と自由の対立」なる問題にシェリングはいかなる仕方で挑むのか。「ドイツ観念論の形而上学の頂点」(ハイデガー)と評される当該著作を冒頭から繙読し、議論を戦わせていくことで、われわれは、自由、汎神論、悪、無底等をめぐる問題系の考察に努めることにしよう。そしてそれにより、語学・哲学上の正確な知識、及び論理的思考力に基づく原典の厳密な読解力を各人が涵養すること、そしてこの読解の過程において浮上してくる重要な問題をめぐる参加者全員の討議を通して、各人が自らの思索を深化させていくことが、本演習の目的である。

[授業計画と内容]
原則的には毎回、予め指名した二名の方にそれぞれ、報告と演習の記録を担当して頂くことにする。ここに各回に扱う予定である原典の範囲を記すが、授業の進度については出席者各位の実力を勘案して修正することもある。
 以下、内容の梗概に続き、括弧内に教科書の頁番号を(また適宜、斜線を付して行番号をも)示す。
1. ガイダンスと前期の復習
2. 「悪の現実性の演繹・その3」(52/30-55/22)
3. 「悪の現実性の演繹・その4」(55/23-59)
4. 「悪の現実性の演繹・その5」(60-63/18)
5. 「悪の現実性の演繹・その6」(63/19-66/4)
6. 「神の自由・その1」(66/5-70/29)
7. 「神の自由・その2」(70/30-/75/10)
8. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その1」(75/11-79/17)
9. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その2」(79/18-82/8)
10. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(82/8-84/31)
11. 「神の自己啓示の目標ー愛の全一性・その3」(84/32-87)
12. 辻村公一「無底ーシェリング『自由論』に於ける」
13. 薗田坦「無底・意志・自然ーJ.ベーメの意志-形而上学について」
14. 総括と総合討論
15. フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期金1松本直樹演習M.ハイデガーの「実存」論
[授業の概要・目的]
 M.ハイデガー『存在と時間』を精読する。ハイデガーの事実上のデビュー作にして最重要著作(主著)であり、その同時代と後世への巨大な影響については、今さら言うべきことはない。「現存在」「実存」「世界内存在」「死への存在」など、今日、私たちが狭い意味での哲学に限らず、多様な思想領域でいわば “常用” している概念の多くが、この書から生まれた。
 その影響力の大きさは、未完に終わったこの書の既刊部分に示された “人間” についての見方に拠るところが大きい(ここで “人間” という概念を用いてよいかどうかは別として)。それにもかかわらず、「私たちは現存在である」「現存在は実存する」といった、私たち “人間” についてのこの書の基本的な見方を正確に、また十分に理解することは容易ではない。
 本演習では『存在と時間』を、その “人間” 理解(「私たち」理解)に焦点を絞って読み進めていく。とりわけ、”人間” のあり方を「現存在」「実存」と規定することの意味、そのことによって “人間” が、『存在と時間』のメインテーマである「存在」の問題に深く関わることの意味を探っていきたい。『存在と時間』のある意味、基本中の基本を、あらためて掘り下げていく作業になるだろう。それは同時に、こうした諸概念を私たちがそれぞれの立場で使用する意味と可能性を探ることにもなるはずである。

[授業計画と内容]
毎回、数名の分担によって指定範囲の訳読を行い、教員も含めて出席者全員による訳文の語学的・内容的な検討・討議を行う。以下に各回の指定範囲を記すが、授業の進度は訳読の速度や議論の密度により変わる可能性がある。また、議論の進み方によっては、指定範囲の変更もありうる(以下に示す諸節は全て『存在と時間』のものである)。
 第1回 イントロダクション
 第2回 第2節(1) 「問う」私たち(1)
 第3回 第2節(2) 「問う」私たち(2)
 第4回 第4節    「実存する」私たち(1)
 第5回 第9節(1) 「実存する」私たち(2)
 第6回 第9節(2) 「実存する」私たち(3)
 第7回 第25節    「誰かである」私たち
 第8回 第26節(1) 「他人といる」私たち(1)
 第9回 第26節(2) 「他人といる」私たち(2)
 第10回 第27節(1) 「誰でもない」私たち(1)
 第11回 第27節(2) 「誰でもない」私たち(2)
 第12回 第29節(1) 「気分的な」私たち(1)
 第13回 第29節(2) 「気分的な」私たち(2)
 第14回 第40節    「ただ一人である」私たち
 第15回 フィードバック
開講期・曜時限教員種別題目
前期火1松葉類講読Judith Butler, Precarious Life: The Powers of Mourning and Violence(2004)を読む1
[授業の概要・目的]
J・バトラーのPrecarious Life: The Powers of Mourning and Violence(日本語題『生のあやうさ』)を読む。本書は、今日までつづく「9・11以降」という時代状況において、生の条件を問い直すことを目的として書かれている。本書の提示する「宗教学」「哲学」「政治学」を横断することで、世界各地で現在も行われている(宗教)戦争に対する、わたしたちのかかわり方について考えたい。授業では、表題作「生のあやうさ」を中心に、英語で読解していく。

[授業計画と内容]
第1回 導入
本講読の進め方を確認し、著者とテキストに関する基本的な事柄の説明等を行う。
第2~14回
テキストの読解と議論等。
第15回
まとめ
開講期・曜時限教員種別題目
後期火1松葉類講読Judith Butler, Precarious Life: The Powers of Mourning and Violence(2004)を読む2
[授業の概要・目的]
J・バトラーのPrecarious Life: The Powers of Mourning and Violence(日本語題『生のあやうさ』)を読む。本書は、今日までつづく「9・11以降」という時代状況において、生の条件を問い直すことを目的として書かれている。本書の提示する「宗教学」「哲学」「政治学」を横断することで、世界各地で現在も行われている(宗教)戦争に対する、わたしたちのかかわり方について考えたい。授業では、表題作「生のあやうさ」を中心に、英語で読解していく。

[授業計画と内容]
第1回 導入
本講読の進め方を確認し、著者とテキストに関する基本的な事柄の説明等を行う。
第2~14回
テキストの読解と議論等。
第15回
まとめ
開講期・曜時限教員種別題目
前期金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習宗教哲学基礎演習A
[授業の概要・目的]
宗教哲学の諸問題を考えるための基本となる文献を選び、宗教学専修の大学院生にも協力を仰ぎながら、それらを共に読み進み、問題を掘り起こし、議論を行う場となる授業である。授業への能動的な参加を通して、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。
宗教学専修の学部生の必修授業であるが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。

[授業計画と内容]
「宗教哲学」という分野の思索様式には、どうしても概説的紹介には馴染まない面がある。宗教の問いと哲学の問いがその源泉において交差連関し、しかもそれが人間が生きていくこと自体にまつわる問題と直結するということ、このことを見据えた学問的研究がいかなる形をとりうるかということは、その「実例」となる仕事の熟読を通して学んでいくしかない。
今期の授業では、京大宗教学専修の長い歴史の一端に触れてもらうという意味も込めて、これまでの専修担当教員や専修出身者の論考の内、専門的な議論に終始せずに広い視座で具体的な問題にも触れているものを数点取り上げ、毎回1点ずつ読んでいきたい。なお、実際に何を読むかは、履修者の関心によって調整することもありうるので、シラバスにはあらかじめ記さないことにする。
各回2,3人の担当者を決め、授業の前半は、担当者の内容要約および考察の発表に充てる。授業の後半では、教員の司会進行の下、発表内容をめぐって、チューターの大学院生たちも交えて、質疑応答と議論を行っていく。隔週授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。(詳細は変更の可能性あり)
1. オリエンテーション
2. 論考1についての発表と議論
3. 論考2についての発表と議論
4. 論考3についての発表と議論
5. 論考4についての発表と議論
6. 論考5についての発表と議論
7. 総括
開講期・曜時限教員種別題目
後期金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習宗教哲学基礎演習B
[授業の概要・目的]
宗教哲学の基本文献を教師とチューター役の大学院生の解説を手がかりに読み進めていくことで、より専門的な研究への橋渡しになるような知識と思考法の獲得を目指す。4回生以上の宗教学専修在籍者にとっては、卒論の中間発表の場ともなる。
宗教学専修の学部生を主たる対象とするが、哲学と宗教が触れ合う問題領域に関心をもつ2回生、および他専修学生の参加も歓迎する。

[授業計画と内容]
宗教哲学の基本文献といえる著作や論文を選んで各回の授業に割り振り、事前に出席者に読んできてもらう。そして、毎回チューター役の大学院生の解説を踏まえて、教員の司会進行の下で、質疑応答と議論を行っていく(その際、履修者には特定質問者の役割を少なくとも1回は担当してもらう)。また、卒論の中間発表の際には、論述の仕方や文献の扱い方なども指導し、論文の書き方を学ぶ機会とする。
隔週の授業のため、全7回として各回のテーマを記しておく。なお、どのような文献を取り上げるかは、前期の「宗教哲学基礎演習A」の様子を見て決めることにする。それによって、各回で取り上げる文献の種類も、以下の記したものとは異なる可能性もある。
第1回  オリエンテーション・卒業論文の中間発表
第2回  宗教哲学の基本文献(近代フランス)の読解・解説・考察
第3回  宗教哲学の基本文献(近代ドイツ)の読解・解説・考察
第4回  宗教哲学の基本文献(近現代英米)の読解・解説・考察
第5回  宗教哲学の基本文献(現代フランス)の読解・解説・考察
第6回  宗教哲学の基本文献(現代ドイツ)の読解・解説・考察
第7回  宗教哲学の基本文献(京都学派の哲学)の読解・解説・考察
開講期・曜時限教員種別題目
通年金4・5(隔週)杉村靖彦・伊原木大祐演習Ⅱ宗教学の諸問題
[授業の概要・目的]
演習参加者が、宗教学の諸問題のなかで各人の研究するテーマに即して発表を行い、その内容をめぐって、全員で討論する。討議のなかで、各人の研究を進展させることが目的である。

[授業計画と内容]
参加者が順番に研究発表を行い、それについて全員で討論する。各人の発表は2回にわたって行う。即ち、発表者は1時間以内の発表を行い、続いてそれについて討論する。発表者はその討論を受けて自分の発表を再考し、次回に再考の結果を発表して、それについてさらに踏み込んだ討論を行う。したがって、1回の授業は前半と後半に分かれ、前半は前回発表者の2回目の発表と討論、後半は新たな発表者の1回目の発表と討論となる。
第1回 オリエンテーション、参加者の発表の順番とプロトコールの担当者を決定。
第2回ー7回  博士課程の院生による発表と全員での討論。
第8回-15回 修士課程の院生による発表と全員での討論。
開講期・曜時限教員種別題目
前期集中佐藤啓介特殊講義死者をめぐる宗教哲学・宗教倫理
[授業の概要・目的]
本科目は、伝統的に宗教文化と深く関連があり、儀礼その他の対象となってきた「死者」の概念をめぐって、近現代の宗教思想や宗教哲学、また「宗教的な」世俗思想(特に現代思想)がどのように考えてきたのか、また、「死者」をめぐって現代の宗教文化・「宗教的」文化がどのような問いに直面しているのかを考える講義科目である。とりわけ、とりわけ、「なぜ、どのように、どの程度まで私たちは死者を倫理的に配慮しなければならないのか」という、死者をめぐる倫理的な諸問題を中心に取り上げる。
具体的には、現代の哲学・宗教哲学・心理学・法学などにおいて議論されている死者に対する倫理を、いくつかの学説に分類したうえで、それらの学説の妥当性を検討する。とりわけ、分析哲学、現代フランス哲学、近代日本思想、キリスト教思想などの死者論を検討対象とする予定である。また、応用的課題として、昨今の喫緊の課題である「死者AI」の問題についても考えたい。

[授業計画と内容]
本科目は集中講義であり、開講日程は8月下旬を予定している、詳細については5月以降にKULASISを通して連絡する。

1.イントロダクション
2.死者をめぐる倫理の基礎的諸問題
3.現代の世俗社会における死者:特に法学的諸問題
4.現代宗教学における宗教哲学と死者倫理
5.観点1 死者の死後生とキリスト教思想
6.観点1 死者の死後生とキリスト教思想(続き)
7.観点2 死者の心理的関係説:グリーフケアと死者倫理
8.観点3 死者の社会的実在説:分析哲学を中心に
9.観点3 死者の社会的実在説(続き)
10.観点4 死者の尊厳説:人間の尊厳の概念史とともに
11.観点4 死者の尊厳説(続き)
12.観点5 死者の他者説:現代宗教哲学を中心に
13.観点6 死者の歴史学的存在説
14.応用問題 死者AIの作成の可否を検討する
15.死者と現代宗教学
開講期・曜時限教員種別題目
前期集中岡崎龍特殊講義ドイツ古典哲学の宗教哲学
[授業の概要・目的]
カントの批判哲学に対する批判的取り組みを通じて発展したドイツ古典哲学を、宗教哲学というテーマに即して概観します。カントが三批判書をはじめいくつかの論文のなかで提示した宗教についての様々な考え方が、後続する思想家たちによってどのように批判的に継承されたかを、それぞれのテクストを解説することを通じて見渡すことがこの授業の趣旨です。カントのほか、ドイツ古典哲学の思想家として、メンデルスゾーン、フィヒテ、シュライアマハー、ノヴァーリス、ヘーゲル、シェリングを扱う予定です。

[授業計画と内容]
第1回 オリエンテーション、カント『純粋理性批判』
第2回 カント『判断力批判』
第3回 カント『実践理性批判』 
第4回 カント『単なる理性の限界内における宗教』
第5回 カント「万物の終わり」、「弁神論」
第6回 メンデルスゾーン『暁』
第7回 カント「思考における方向づけ」、「啓蒙とは何か」
第8回 フィヒテ『啓示批判』、「無神論論争」
第9回 シュライアマハー「最高善について」、「人生の価値」
第10回 シュライアマハー『宗教について』
第11回 ノヴァーリス「キリスト教世界とヨーロッパ」
第12回 ヘーゲル「信仰と知」
第13回 ヘーゲル『精神現象学』(疎外・啓蒙)
第14回 ヘーゲル『精神現象学』(啓示宗教)
第15回 シェリング『人間的自由の本質』