『二十世紀研究』創刊の辞

雑誌『二十世紀研究』創刊号

20世紀が幕を閉じようとしている。この百年が、われわれの生そのものから、歴史の情景に転じる。世紀の転換が、とくに20世紀から21世紀への交代が、何らかの歴史的意義をもつかどうかはなお不明であろう。しかし、歴史研究者にとって、認識上の重要な一区切りであることは、疑いをいれない。20世紀、人類はどのような活動を営み、社会のあり方を変え、思想を作り、また記憶を刻んできたのか。そのすべての問題を視野に入れ、われわれはいま、20世紀を総体として考える長い道程の一歩に立とうとしている。

かつて芭蕉は、奥羽長途への旅立ちを、「古人も多く旅に死せるあり」と記した。人生そのものが旅だとしても、彼は、なぜ、かくもすさまじい旅人であろうとしたのか。余人はただ量るほかないが、私たちもいま、同じ「旅」立ちの思いを秘めている。芭蕉に似た「心をくるはせ」る思いを抱きつつ、たとえ野ざらしとなることがあっても、しなやかな苗木の幾本かを、行程に残すことができれば、と念じて。

20世紀を、地域と世界をあわせみる歴史研究の立場から、さらには学際的な人文学の総合誌として、文化・思想・生活研究の立場からも、幅広く、また深く、掘り起こしていきたい。『二十世紀研究』が、多くの人びとの研鑽と論議の広場とならんことを、心から願っている。

2000年12月1日  『二十世紀研究』編集委員会を代表して 紀平英作