ギリシア・ローマに始まり、今日のEUに至るヨーロッパ文明は、近世以降世界の諸文明に多大の影響を与えてきた。明治以降の日本の歴史もまた、絶大な影響を受けてきたことは言うまでもない。ヨーロッパや西洋文明世界の歴史を深く理解し、いかに解釈するかは、日本人にとって不可避の課題である。この課題を歴史学の立場から正しく果たすためには、一方では西洋人自身による豊富な研究成果を吸収する必要があり、他方では日本人の立場から、更にはグローバルな視野に立って、ヨーロッパや西洋文明世界の歴史の意味を明らかにすることが望まれる。
西洋史学専修は、3人の専任教員が一体となって研究と教育に当たっている。南川教授はローマ帝国の政治史と社会史が専門であり、小山教授はポーランド近世の政治文化を専攻している。金澤准教授は、イギリス近代の政治と社会を専門分野としている。学生・大学院生の専攻テーマは、こうした専任教員の専攻分野に縛られることなく、自由に選択されており、実に多様である。
次に西洋史関係の授業(講義・特殊講義・演習・実習・講読)について説明する。まず「講義」は「西洋史学序説」と題され、主に西洋における歴史学の発達や歴史意識の変遷、あるいは西洋史研究の実際の進め方などについて講じる。必須科目であり、2回生で履修することが望ましい。「特殊講義」は各教員がそれぞれ専攻領域についての研究の結果をかみくだいて話すものである。専任3教員がこれを担当するほか、京都大学人文科学研究所のスタッフおよび他大学からの非常勤講師によって、毎年ヴァラエティに富む講義が行われている。これらの特殊講義を数多く受講することによって、学生は西洋史上の重要な研究テーマについての高度の知識を習得するとともに、現在の学界における論争点や具体的な研究の方法などについて学ぶことができる。
次に「演習」は欧語文献をテキストとして用い、その読解、学生による報告と討論を行う。3回生はまず各自の関心にしたがって「古代史」、「中世史」、「近世史」、「近代史」のいずれかの時代別演習に出席する。この演習には大学院生も専攻に分かれて出席し、報告と討論に参加する。3回生はまた、「実習」に出席して西洋史学の研究方法を具体的に技術的なレヴェルから習得する。次いで、4回生は全員「卒論演習」に出席し、卒業論文の中間発表を行う。それゆえ、3回生の間に特殊講義や演習に出席しながら自分の関心の在りかを見定め、卒業論文のテーマをある程度しぼっておく必要がある。最後に、「講読」は「演習」とともに卒業論文の作成に必要な欧語文献の読解力を養うことを目的とするが、卒業要件としては、英・独・仏・露・伊の各国語のうちから少なくとも二つを(ただし、そのうち一つは英・独・仏・露書のいずれかを)履修しなければならない。また「講読」のうちの1科目を、学部共通科目のギリシア語、ラテン語、スペイン語(中級)のいずれかで履修することもできる。
さらに、1~2回生の間にぜひ勉強しておいて欲しいことを記しておく。まず外国語の習得。西洋史の授業では欧語文献の読解が大きな比重を占める。英語以外に少なくとも1か国語を習得すること。古代史を専攻しようとする者は古典語、中世史の場合もラテン語が専門研究者になるためには習得が必要であり、近世以降のヨーロッパ諸国の研究を希望する場合も、その国の言語を学ばねばならない。余力があれば、これらも2回生、3回生の間に始めておくことが望ましい。
なお、本専修専任教員が編集した書物『人文学への接近法 西洋史を学ぶ』(京都大学学術出版会)に、西洋史学を学ぶ意義や具体的な方法から留学や就職、参考文献まで説明されているので、ぜひ参照されたい。
本専修は、古代ギリシア・ローマから現代に至るまでの西洋世界の歴史的発展を、政治、経済、社会、思想、文化の諸側面にわたって体系的に把握することを目指して、研究と教育を行っている。現在の専任教員3人はそれぞれローマ史、ポーランド近世史、イギリス近代史を主たる研究対象としながら、上記の課題と取り組んでいる。また、大学院生は各自の問題関心にしたがって自主的にテーマを決めて研究を行っており、その対象領域は専任教員の専門分野をはるかに超えて極めて広い範囲にわたっている。
以上のように本専修では、大学院生に対して何よりもまず自主的・自発的な研究態度を求めており、どのようなテーマを選びそれをどのような方法で解明して行くかは院生の自由である。しかし、自己の専門に狭く閉じこもることは厳に戒めるべきであり、研究室での教員や他の院生との日常的な討論を通じて、また本専修が組織し運営する学会「西洋史読書会」をはじめ、学外の様々な学会、研究会などに積極的に参加することによって視野を広げ、自らの研究テーマの意味を問い直して行くことが望まれる。
研究発表や論文執筆の基本的な方法については大学院演習で習得していくことになるが、自己の研究テーマに関わる方法論の習得と練磨は主として院生自身で行わなければならない。その際希望しておきたいのは、次の諸点である。第1は、いうまでもないことながら、それぞれの分野での先行研究の成果を十分に咀嚼した上で問題を適切に設定し、基本的な史料を用いてそれを解明していかなければならないことである。第2に、西洋史学はきわめて学際的な学問であり、隣接諸科学との関係がたいへん深いので、西洋史学の研究者になろうとする者には、学際的な感性と関連諸学の素養が今後ますます要求されるだろう。第3に、西洋史学の研究の重要な手段である外国語能力の運用に努めることが肝要である。今日のわが国における西洋史研究のレベルは欧米学界と変わらぬものとなり、一次史料に基づく独創性の高い研究ばかりでなく、日本語に加えて外国語によるその成果の公表が要求されるようになっている。そのためにも、外国語の精密な読解力と合わせて、コミュニケーション能力がこれまで以上に望まれよう。
本専修では、専任教員や本専修を運営の基盤とする研究会が主催する学会、国際シンポジウム、外国人学者講演会などがしばしば開かれるため、大学院生がそうした機会を利用して学会活動に馴染み、また外国留学の準備を進めるなど、授業以外でも専門研究者への歩みを進める環境がある。修士課程を修了して就職する予定の大学院生にとっても、本格的な学会活動や国際的な学術コミュニケーションの場に加わることは、グローバルな活動のための重要な準備の機会となろう。