2007年度の授業

2007年度の授業

(本年度学生便覧より抜粋)

◆講義◆

池田秀三(教授) 中国哲学史概説

中国文化の中核たる哲学・思想の学習・理解を通して、中国さらには東アジア全体の文化に対する認識と洞察を深める。

【講義の概要】

前期は、中国哲学・思想の全体的特質とその思考様式を鳥瞰的に概説し、あわせて中国哲学史の研究方法を、中国古典文献学に重点を置きつつ解説する。後期(前期の一部を含む)は、中国哲学史上の主要な思想家および書物を取り上げ、通史的に概説する。本年度は秦漢期の思想を対象とする。

【授業項目】

前期:中国哲学・思想の特質(現実主義、合理主義、人間主義、中庸の尊重、天人合一、知行合一)、儒教の宗教性、中国の思考様式(経験重視の帰紊法、待対論、経と権、修辞学と説得術、経学的思考法、西洋的論理との相違)、中国哲学史の研究法(哲学思想史、政治思想史、倫理思想史、社会思想史、学術史それぞれの立場とその総合)、中国古典(漢文文献)の取り扱い方(中国文献学の初歩的概説)

後期:中国哲学史の時代区分、秦漢期の思想の全般的特色とその中国哲学史・思想史における意義(儒教の国教化と天人相感思想)、呂氏春秋、黄老思想、陸賈、賈誼、董仲舒と春秋公羊学、淮南子、司馬遷、劉向・劉歆、揚雄

◆講読◆

宇佐美文理(准教授) 論語集注

朱子『論語集注』を読む。漢文読解力の養成、ならびに古典読解における基礎知識の習得をめざす。

◆特殊講義◆

池田秀三(教授) 礼学略説

中国の学術思想を理解するためには、礼学の基礎知識が上可欠である。本講では、民国初期の国学者黄侃の著した『礼学略説』を精読しながら、礼書・礼学者・礼制を中心に礼学の基礎知識を講述する(昨年よりの継続)。

なお、演習形式も取り入れるので、受講者は漢文読解の基礎力を修得していることが望ましい。

宇佐美文理(准教授) 中国藝術理論史研究

中国藝術理論史のなかで、特に絵画理論に焦点を当てて論述する。

今年度は張彦遠『歴代吊画記』を、詳細な注釈を加えながら読み直し、前年度までに講義で扱ってきた漢魏六朝時代の藝術理論史上の諸問題を視野に入れながら論ずる。

武田時昌(協力講座・人文科学研究所教授) 術数学の学問的輪郭

中国特有の学問分野である術数学は、易を中核とする占術と天文暦数学、医薬学等の科学知識とが複合したものであり、哲学、宗教と科学の境界領域においてきわめてユニークな発展を遂げた。その形成と史的展開を考察することで学問的輪郭を明確にし、理論構造の特色を探る。

本年度は、唐代の術数書、とりわけ日本にも伝来し陰陽道の基礎文献となった呂才撰『陰陽書』、王璨撰『新撰陰陽書』を取り上げ、その読解を試みながら、中国及び日本における中世的展開の具体的様相を考察する。

船山徹(協力講座・人文科学研究所准教授) 漢文資料によるインド・中国仏教史の研究

漢文仏典は、中国仏教研究とインド仏教研究のいずれからみても必須の歴史的資料である。この授業では、実際に具体的文献を読みながら、漢文仏典を扱う際の基本事項を習得することを目指す。昨年に引き続き、本年度も、六世紀前半の梁の武帝によって編輯された『出家人受菩薩戒法巻第一』という敦煌写本を取り上げる。本年度はその後半部分を読了した後、テキスト全体の思想史敵意義を考察する。本写本の文章表現は概して平易であり、標準的仏教漢文ともいえる。内容的には、大乗戒受戒儀礼の詳細な規定を主題としつつ、戒律以外の諸問題とも関わりのある興味深い文献である(仏教漢文を読み慣れている人はもちろん、馴染みのない人であっても知的好奇心が旺盛ならば誰でも大歓迎)。

末岡宏(講師・集中) 近代中国思想史の諸課題

近代、西洋思想との出会いの中で中国伝統思想は動揺・変容している。清代から民国初期にかけての大きな政治・社会の変容の過程で、思想も変革を経なければならなかった。これらを通して、近代中国の思想の特質を考えるとともに、中国思想について考察する。

授業は、次の3つのテーマを設定し、資料に拠りながら近代思想の特質について考察する形式で進める。

・ウェスタンインパクトと中体西用論

・日本を通した西洋文化の受容

・伝統学術の変容(経学から国学へ)

主な参考文献

Benjamin I. Schwartz 『In Search of wealth and power. Yen Fu and West』(Harvard University Press, Cambridge, Mass, 1964)(平野健一郎訳『中国の近代化と知識人』東京大学出版会、1978年)、山室信一『

思想課題としてのアジア』(岩波書店、2001年)、佐藤慎一『近代中国の知識人と文明』(東京大学出版会、1996年)、楽蘇主編『中国思想参考資料 晩清至民国巻』(北京・精華大学出版社、2005年)

その他の参考文献は授業中に指示する。また、日本近代史及び中国近代史についての基礎的な事項について調べておくこと。

◆演習◆

池田秀三(教授) 姚椿『国朝文録』

清朝文総集の代表の一たる『国朝文録』を読む。

清朝学人のさまざまな論題や文体の文章を精読することにより、古典読解力の向上を図るとともに、伝統的学術に対する幅広い素養を得ることを目標とする。

担当者は必ず訳注等の発表資料を準備すること。また、単位認定は平常点によるので、履修希望者は毎回出席のこと。

宇佐美文理(准教授) 日知録集釈

顧炎武の『日知録』を読む。なお、黄汝成の注をあわせ読む(今年度は、昨年度に続いて巻十三、「除貪《から)。

麥谷邦夫(協力講座・人文科学研究所教授) 道教思想資料

六朝から隋・初唐期の仏道論争をもとに道教批判を展開した唐・玄嶷『甄生論』を読む。大正新修大蔵経52巻所収のものを各自用意すること。

古勝隆一(協力講座・人文科学研究所准教授) 『尚書今古文注疏』校読

数ある中国古典の中でも、『尚書』はもっとも重厚な伝承・解釈の歴史を有するものであり、またそのような多数の解釈をもってしても、きわめて難解な文献であるとされる。この講義では、清の孫星衍『尚書今古文注疏』を読むことにより、『尚書』の諸解釈に触れることを目的とする。

『尚書』の注釈書のうち、『尚書今古文注疏』は高い吊声を得ているが、この書物は実に複雑である。今文・古文の経文と注とが複雑に連関しあい、さらにそこに孫星衍による詳しい疏が加えられるという体裁をもち、まさに『尚書』の伝承・解釈の複雑さを余すところなく反映している。単純をよしとする志向とは無縁であり、「『尚書』本来の姿とは?《とか、「その真正なる解釈とは?《といった勇ましい単純化は、そこでは却けられている。「五家三科《と呼ばれる複数の解釈がそれぞれの根拠とともに挙げられ、そこに孫氏の見解がさりげなく示される。複雑ではあるが、漫然とした文献の羅列には堕しておらず、読みごたえのある注釈といえよう。

基本的な知識は特に要求しないが、本書に引用される多数の古典に触れる中で、おのずと知識は身につくものと想像される。読解力についても同じことがいえる。

標点本があるので、ある程度の分量を読み進めることは可能であろう。標点本の実力も検討してみたいので、私自身は複数の版本を用意して読む。意欲のある学生諸君は、思い思いの版本や参考文献を手に、この授業に出席して欲しい。

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