科学哲学ニューズレター |
No.9, May 1995
S.Uchii, "Wes and Merrilee Salmon Visit Japan"
News of our Department
ピッツバーグ大学科学史科学哲学部のウェスリー・サモン教授とメリレー・サモン教授が、世界一周の洋上大学の航海途中で大阪に寄港したS.S.Universe 号に乗っており、4月20日から24日まで京阪神に滞在した。ウェスはライヘンバッハの弟子としてパットナムの学友であり、確率論、確証理論、および空間・時間論での多くの著書や論文で知られる高名な科学哲学者である。最近では、科学的説明に関する一連の著作が学界で話題になっている。メリレーはミシガン大学のバークス教授のもとで学位を得て(筆者内井の姉弟子にあたる)、Philosophy
and Archaeology, Introduction to Logic and Critical Thinking などの著書で知られる科学哲学者であり、今年一月まで
Philosophy of Science 誌の編集長を5年間務めていた。また、ピッツバーグ大学科学史科学哲学部のスタッフによる
Introduction to the Philosophy of Science (Prentice-Hall, 1992)
という優れた教科書も、彼女がまとめ役となって実現した。今回洋上大学で教えているのはメリレーのほうで、ウェスは同伴家族として参加の由である。短い滞在ゆえ、日本の研究者との交流の機会が持てなかったのは残念である。大阪、京都、および奈良の観光を楽しみ、内井との旧交を温めてシアトルまでの最後の航海についた。
Hans Reichenbach
(1891-1953)
洋上大学のプログラムは日本人には珍しく思われるので簡単に説明しておきたい。これは単なる物見遊山のプログラムではなく、100日間の一学期分の授業を提供し正規の単位を認定するプログラムである。教官スタッフおよび参加学生は全米の大学から募集され、図書館、コンピュータ・ルーム、劇場、プール、アスレティック・ジムも船中に備えられている。年に2回、東回りと西回りの航海が企画されており、今回は、バハマ発、南米、喜望峰、ケニヤ、インド、ホンコン、台湾、日本等を経由してシアトルまでの東回りコースである。一航海に約500人の学生が参加しているそうである。もちろん、それぞれの停泊地ではツアーや各種のプランが用意されており、各国での実地体験を織り込みながらの一学期は、正規のキャンパスでの学習よりも当然割高となるが、得難い体験となるにちがいない。
メリレーとウェスの話では、今回台湾での停泊中に、サーカスのキャンプ地で虎の檻に柵を乗り越えて近づいた女子学生が、大胆にも檻の中へ手を入れて虎を可愛がろうとして虎に捕まり、指の一部を食いちぎられたそうである。このような事故がありうるとはいえ、「改組・改革」でやたらと雑用と会議が多いわれわれにとってはマコトに羨ましい話ではないか。メリレーとウェスを連れて奈良や京都案内中にも何組かの学生グループと出くわした。多くの人たちは、たった二三日の間に大阪地下鉄をはじめ交通機関のエキスパートになり、神戸の震災地にまで足を延ばした者や、東京ディズニーランドを目指した連中もあると聞いた。ただし、このところの円高がこたえてか、メリレーとウェスの財布のヒモは堅かったようである。(内井惣七)
Wes and Merrilee in Todaiji, Nara
Photo by S.Uchii
研究室近況 すでに本誌7号でも予告したとおり伊藤和行助教授が4月1日づけで着任し、学生諸君にハッパをかけている。科学史関係の雑誌や文献は現在乏しいが、彼の努力でこれから着実に整備されていくものと期待できる。
本年3月に博士論文『超越論哲学における「私」――カントにおける自我と世界』により学位を取得した八幡英幸君は、学術振興会の特別研究員の任期延長が認められてもう一年研究を続ける。研修員の松王政浩君はライプニッツに関する学位論文執筆にかかる予定。
新専攻生(3回生)は以下の5名が登録し、研究室(物理的な「研究室」は実はまだ存在しない!が)にフレッシュな雰囲気を作り出している。伊藤恵美子/上田 彰/橋本和也/梅山岳人/松原 真(工学部より転学部)。その他、科目履修生および聴講生が新たに5名加わり、総勢で学部生8名、聴講生等6名という陣容になった。
S.S.Universe
Last modified March 24, 1999. webmaster