2010年度授業概要

系共通

○伊藤和行「科学史入門」(講義)(通年 火2)

〔授業の概要・目的〕

科学とは何かという問題を歴史的視点から考察する.前期は古代から17世紀科学革命までを,後期は19世紀後半から20世紀の科学を扱う.

〔授業計画と内容〕

前期は、近代西欧科学が誕生した17世紀科学革命の核心である力学の誕生について古代から17世紀までの天文学と運動論の展開を辿って検討する。
1.天文学 地球中心説,太陽中心説
2.運動論 古代,中世とルネサンス,ガリレオの運動論
3.「科学革命」 ニュートンの力学

後期は、19世紀後半から20世紀の科学について生物学の革命を中心に論じる。
1.進化論 ダーウィンの進化論,進化論の統合
2.遺伝学 分子遺伝学の誕生と発展,ヒトゲノム計画

○伊勢田哲治「科学哲学入門」(講義)(通年 金3)

〔授業の概要・目的〕

科学哲学は「哲学」という視点から「科学」に切り込む分野である。本講義では、多様化のすすむ科学哲学のさまざまな研究領域を紹介し、受講者が自分の関心に応じて今後掘り下げていけるような「入り口」を提供する。

〔授業計画と内容〕

1 科学とは何か
2 科学的推論
3 個別科学における科学的推論
4 科学的説明
5 個別科学における科学的説明
6 実在論と反実在論
7 個別科学における実在論問題
8 科学の変化と科学革命
9 個別科学における変化の問題
10 科学と価値

〔教科書〕

サミール・オカーシャ『科学哲学』

○矢田部俊介「論理学(最小論理の自然演繹)」(基礎演習 I)(通年 火4)

〔授業の概要・目的〕

本演習では、数学における証明を題材に、証明で使用される「論理的」操作が可能な記号処理の体系を紹介し、単なる記号の処理を行なう体系が「論理」と呼ばれるにはどんな性質を満たす必要があるかを考察する。

〔授業計画と内容〕

前期には、最小述語論理の自然演繹を紹介する。問題演習を通じ、各自が自然演繹の証明が出来るようになることが目標である。また、最小論理上の算術の体系「最小算術 Q」を例に、数学における多くの証明が最小論理で遂行可能であることを示す。後期では、論理結合子の意味とは何かを考え、「証明論的意味論」と呼ばれる考え方を紹介する。また、論理結合子の条件とは何かを、推論主義の立場から、Belnapのtonkの例を中心に考察する。最後に、論理規則を付け加えるとはどういうことかを、例を挙げて考える。すなわち、最小論理に矛盾律、排中律と論理規則を加えていき、直観主義論理、古典論理の体系を紹介し、どのような違いがあるかを示す。

〔教科書〕

記号論理入門 (哲学教科書シリーズ)(金子洋之)産業図書 1994/10

〔参考書等〕

Natural Deduction: A Proof-Theoretical Study (Dag Prawitz) Dover Publications

〔その他 (授業外学習の指示・オフィスアワー等)〕

体系を理解するためには、まず手を動かして練習問題の証明をやってみよう。?とは何か、と考えるのはそれから。

特殊講義(学部・大学院共通)

○伊藤和行「『宮廷知識人』としてのガリレオ」(前期 月3)

〔授業の概要・目的〕

ガリレオは「近代科学の父」と呼ばれてきたが,近年の研究は,彼の後半生の活動が「宮廷知識人」としてのものであることを明らかにしている.授業では,そのような研究の代表的なものを取り上げて,その内容の検討をする.

〔授業計画と内容〕

ガリレオの生涯と業績について概観してから,「宮廷知識人」に関する近年の研究を紹介する.(Mario Biagioli: Galileo, Courtier: The Practice of Science in the Culture of Absolutism など)

その後,以下の2冊の研究書を検討する.各章の内容を各出席者がまとめて発表し,それに基づいて検討する.
1.シーア,アルティガス『ローマのガリレオ―天才の栄光と破滅』
2.Mario Biagioli: Galileo’s Instruments of Credit.

〔教科書〕

シーア,アルティガス『ローマのガリレオ―天才の栄光と破滅』
Mario Biagioli: Galileo’s Instruments of Credit.

○伊藤和行「プランクの科学思想」(後期 月3)

〔授業の概要・目的〕

マックス・プランクは,「量子」概念を提唱し,現代物理学の扉を開いたことで知られる.授業では,20世紀前半のドイツ物理学を率いたと言われるプランクの科学思想を検討する.

〔授業計画と内容〕

授業では,まず参考文献に基づいてプランクの生涯と業績,時代的背景について概観する.次いで,プランクが1909年に米国コロンビア大学で行なった講義を独語原典で講読する.

テキストとしては,次のものを用いる.
Max Planck: Acht Vorlesungen uber theoretische Physik : gehalten an der Columbia University in the city of New York im Fruhjahr 1909, 1910.

〔参考書等〕

プランク『現代物理学の思想』,ハイルブロン『マックス・プランクの生涯』,高田誠二『プランク』他.(授業において紹介する)

○伊勢田哲治「リスクをめぐる哲学的諸問題 (risk and its philosophical issues)」(前期 水2)

〔授業の概要・目的〕

The notion of risk is central to the relationship between science and society. In this lecture, we investigate philosophical issues of risk, using insights from STS and psychology.

〔授業計画と内容〕

Even though the larger of the lectures are delivered in Japanese, some lectures will be in English.Students are expected to do readings and take part in classroom discussions. The topics (tentative):
* the notion of risk
* backgrounds in STS (Science, Technology and Society)
* backgrounds in philosophy of science
* issues in risk analysis
* risk recognition
* schemes of risk evaluation
* issues in risk communication

〔履修要件〕

adaptability to the bilingual environment

〔教科書〕

Shrader-Frechette, Risk and Rationality. (Other readings will be announced in the class)

○伊勢田哲治「倫理はどこまで自然化できるか」(後期 水2)

〔授業の概要・目的〕

進化倫理学や脳神経科学における倫理的判断の研究など、倫理を自然科学的なアプローチでとらえる研究が近年盛んである。今回の講義では、そうした動きを概観すると共に科学哲学や倫理学の観点から検討していく。

〔授業計画と内容〕

この授業は基本的には講義形式ですすめるが、質問やディスカッションという形での受講者の参加も求める。受講者は事前に指示された論文を読み授業に参加する。主な内容は以下のとおり。
*メタ倫理学における自然主義
*進化論における利他行動の研究
*進化倫理学のさまざまな立場
*文化進化の視点
*脳神経科学的研究
*社会学的な視点

○下嶋篤「グラフィック表現の科学」(前期 金2)

〔授業の概要・目的〕

本講義では講師とその共同研究者の研究を中心にグラフィック表現の研究における意味論的方法と認知科学的方法を紹介する。受講者はまだ確立していない分野において科学的方法を模索する試みに直に触れる機会を得る。

〔授業計画と内容〕

1.グラフィック表現の科学
2.グラフィック表現の機能的特徴
3.意味論的方法:制約理論
4.チャンネル理論
5.チャンネル理論による制約理論の数学的表現
6.認知科学的方法 (1):視覚的インデクス
7.視覚的インデクスとグラフィック表現の意味機能
8.認知科学的方法 (2):object-based attention
9.Object-based attentionと図表現の意味機能
10.まとめ:意味論的アプローチと認知科学的アプローチの融合

〔履修要件〕

集合論の基礎(集合、関係、関数)、一階述語論理に関する知識

〔参考書等〕

Jon Barwise & John Etchemendy, Information Flow: the Logic of Distibuted Systems, Cambridge University Press, Cambridge, 1997.

○中村征樹「科学技術と市民参加」(後期 月5)

〔授業の概要・目的〕

科学技術をめぐる問題について、科学者だけでなくさまざまな関係者がともに問題を考えていくことが必要となってきた。科学技術論の近年の議論を参照しながら、科学技術に市民が関与することの意味について検討する。

〔授業計画と内容〕

授業の前半では、科学技術をめぐる問題に市民が関与することの可能性とその意味、意義に関連して、科学技術論や科学技術政策でなされてきた代表的な議論を紹介する。そのうえで、環境問題や医療など、科学技術をめぐる問題に市民がさまざまなかたちでかかわってきた事例に着目し、以上の論点について具体的に検討する。また、学期後半では、コンセンサス会議やサイエンスショップ、サイエンスカフェなど、科学技術に関する市民参加型手法について紹介するとともに、その可能性と意義について検討する。

〔教科書〕

H.コリンズ・T.ピンチ『迷路のなかのテクノロジー』(化学同人、2001年)

〔参考書等〕

小林傳司編『公共のための科学技術』(玉川大学出版部、2002年)。その他の参考書については授業で指示する。

〔その他 (授業外学習の指示・オフィスアワー等)〕

科学技術に関する知識は必要ないので、理系科目が苦手でも臆せず参加してください。むしろ本授業では、科学技術をめぐる問題について、科学技術の専門家ではない人たちがどのように関わることができるのか、ということについて、みなさんと一緒に考えたいと思います。

○古川安「京都大学における化学 ―喜多源逸から福井謙一まで―」(集中)

〔授業の概要・目的〕

明治から昭和にかけての京都大学における化学の教育・研究の歴史を制度史・人物史の観点から検討する。

〔授業計画と内容〕

形式は講義・発表・討論。
主なトピックは、以下の通りである。
京都帝国大学の誕生・理工科大学の化学・澤柳事件・喜多源逸と工業化学
櫻田一郎とビニロン・児玉信次郎と人造石油・福井謙一と量子化学
参考文献
天野郁夫『大学の誕生―上巻 帝国大学の時代―』、桜田一郎『高分子化学とともに』、福井謙一『学問の創造』、米澤貞次郎・永田親義『ノーベル賞の周辺―福井謙一博士と京都大学の自由な学風―』、鎌谷親善「京都帝国大学附置化学研究所―戦時期―」『化学史研究』21 (1994)ほか

演習(学部・大学院共通)

○伊藤和行「ダーウィンの進化論」(前期 火3)

〔授業の概要・目的〕

ダーウィンの進化論は,現代生物学にも大きな影響を与え続けていると言えよう.授業では,彼の進化論の核心である自然選択説を,『種の起源』の読解を通じて検討する.

〔授業計画と内容〕

授業では,ダーウィンの生涯と業績,19世紀の進化論の時代的背景について参考文献を参照しながら概観する.
次いで,『種の起源』(On the Origin of Species)において自然選択説が展開されている第4章を輪読する.
テキストとしては第1版(1859)を用いるが,大幅な改訂がなされている第6版(1872)を適宜参照する.

『種の起源』のpdfファイルはウェブ上でダウンロード可能である.
The Complete Work of Charles Darwin Online (http://darwin-online.org.uk/)

〔参考書等〕

松永俊男『チャールズ・ダーウィンの生涯』,内井惣七『ダーウィンの思想?人間と動物のあいだ』他,授業中にも紹介する.

○伊藤和行「江戸時代の天文学」(後期 火3)

〔授業の概要・目的〕

天文学は,江戸時代において専門家が存在した数少ない科学分野であり,また中国やオランダを通じて西洋世界の科学知識が取り入れられていたことが知られている.授業では江戸時代の天文学の歴史を概観する.

〔授業計画と内容〕

授業は,概論書である次の研究書の輪読という形式で進める.各出席者が各章の内容をまとめて発表し,それに基づいて検討する.

中村士『江戸の天文学者 星空を翔ける ‐幕府天文方、渋川春海から伊能忠敬まで‐』

〔教科書〕

中村士『江戸の天文学者 星空を翔ける ‐幕府天文方、渋川春海から伊能忠敬まで‐』

〔参考書等〕

中山茂『日本の天文学』,林淳『天文方と陰陽道』ほか

○伊勢田哲治「科学はいかにして可能か――科学の認知的基礎――」(前期水3)

〔授業の概要・目的〕

認知科学や心理学を使ったアプローチの例として近年のアンソロジーを読み、科学における認識や推論を可能にするような心理学的な基盤について考える。

〔授業計画と内容〕

今回のテキストとしているカラザースらのアンソロジーはかなり分量が多いので、参加者の関心にあわせて実際によむ論文を選び、1~2回で一本の論文を読むことを計画している。学生は一人ないし複数で一本の論文を担当する。具体的には以下のようなタイトルの論文を読むことになる。
*人間の進化と科学の認知的基礎
*科学的推論の起源
*理論形成の計算論的説明
*モデルベースの思考の認知的基礎
*因果性についての思考
*科学的認知における感情の役割

〔教科書〕

Carruthers, Stich and Siegal eds. The Cognitive Basis of Science.

○伊勢田哲治「社会科学の哲学」(後期 水3)

〔授業の概要・目的〕

社会科学の哲学は、社会学、経済学、人類学などの社会科学と総称されるさまざまな学問分野の基礎概念や方法論について論じる分野である。本演習は、この分野の基礎文献を読むことを目的とする。

〔授業計画と内容〕

授業は基本的に一回の授業で一本の論文を読み、それについてディスカッションする形ですすめる。取り上げる話題としては以下のようなものを考えている。
*社会科学は自然科学より劣っているか
*社会科学における量的アプローチと質的アプローチ
*経済学の方法論
*社会科学における解釈の役割
*全体論と方法論的個人主義
*社会科学と価値

〔教科書〕

Martin and McIntyre (eds.), Readings in the Philosophy of Social Sciences, Hausman (ed.) The Philosophy of Economics などから抜粋。

○伊藤・伊勢田「科学哲学科学史セミナー」(通年 金4)

〔授業の概要・目的〕

発表演習,四回生・大学院生必修.卒論・修論あるいはその他の論文作成や学会発表に向けて,プランや途中経過などの発表をしてもらいます.

〔授業計画と内容〕

欠席が多い学生には、発表しただけでは単位を与えないことがあるので注意のこと.またわかりやすくおもしろいプリゼンテーションを要領よくできるように,いろいろなテクニックも習得していこう.

授業時間割表

※上段は前期を,下段は後期を表す

1限 2限 3限 4限 5限
伊藤 特講
ガリレオ
伊藤 特講
プランク
※前期は
授業なし
中村 特講
科学技術と市民
伊藤 講義
科学史入門
伊藤 演習
ダーウィン
伊藤 演習
江戸の天文学
矢田部 基礎演習 I
論理学演習
伊勢田 特講
リスクの哲学
伊勢田 特講
倫理の自然化
伊勢田 演習
科学の認知的基礎
伊勢田 演習
社会科学の哲学
下嶋 特講
グラフィック表現

※後期は
授業なし
伊勢田
科学哲学入門
伊藤・伊勢田
科哲史セミナー
集中
  • 古川 特講「京都大学における化学 ―喜多源逸から福井謙一まで―」(9/6-9/10)