concept / 趣旨

 

現代の科学技術の発達は、世界的規模の文化的経済的交流を促進させ、異なる文化、異なる世界の発見、出会いを可能にし、また不可避にしている。グローバルな広がりを持った多元的な世界が我々の前に開かれつつあるが、この世界の多元性はまた、激しい抗争と対立の危機をも孕んでいる。

また最近の科学技術の発展は急速なものがあり、それがもたらす成果は(殊に生命科学、情報科学の領域で)我々の期待を越えたものがあり、我々の常識を覆すのに十分なものである。世界は我々のこれまでの尺度と常識を越えた多様な豊かさをもった、未知を含んだ多元的なものとして現れている。そしてここでも、人間の生きられた自然と、科学の切り開く自然との埋めがたい溝が多くの問題を引き起こしている。我々は世界の認識においても、生の倫理的問いにおいても、また文化・制度に関わる営みにおいても、根本的な再点検を迫られている。

グローバルな統一の可能性を秘めつつ、危機をも孕んだ多元的な現代世界に生きる我々には、この多様で複数の中心を持った「他なるもの」からなる世界に対応しうる柔軟且つ強靱な探究の論理が、新たに求められている。それはすでに確定した真理の拡大をもっぱらこととするのでなく、また傍観者として真理の相対性を説くのでもなく、他者と対話しつつ、真理を探求する者の論理である。かつてプラトンが実在世界を探求する思考法を対話的思考法(ディアレクティケー)と名付けたのに倣うなら、新たな対話的思考法、新たな対話的探求の論理が求められる。

この研究会においては主として三つのテーマが問題にされよう。一つはこれまでの歴史の中で、多様なる世界との出会いの経験の中から生まれた探究的思想を現代の視点から読み解く作業である。(例えばプラトンの対話的思考法、古代イスラエル預言者の宗教思想、クザーヌスの「知ある無知」の探究法、ヘーゲルの弁証法等々)。

第二は、「他者論」「多元主義」を中心とした現代思想の焦点となる問題をめぐる議論である。西欧思想を規定した同一性へ還元できない「他なるもの」に対面する在り方を探る「他者論」の試みや、排他的絶対主義や傍観者的相対主義に堕さない「多元主義」の求めは、この研究会の基本的主題である。

第三は、日本近代の哲学思想の中で追求された「対話的探究の論理」の見直しの作業である。ここでは西田、田辺、波多野などの京都学派の哲学思想の再吟味が主として為されることになろう。

この研究会は、若い研究者(オーバードクター、大学院博士課程の学生)の積極的な参加を予定している。また発表の機会もなるべく多く設けたい。そうすることによって、それぞれの専門研究の彫琢、完成が早められることを願うからである。

京都大学文学研究科21世紀COEプログラム 「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」
「新たな対話的探求の論理の構築」研究会 / 連絡先: dialog-hmn@bun.kyoto-u.ac.jp