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グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成

NEWS LETTER

(文学と言語を通してみたグローバル化の歴史)


No.1

2003年1月27日発行


 第34研究会「文学と言語を通してみたグローバル化の歴史」のニュース第一号です。
私たちの活動の紹介などを定期的にお伝えしていきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

********** 目次 **********

☆1.当研究会の趣旨      

☆2.参加メンバーとそれぞれの課題

☆3.活動状況         

☆4.第2回研究会の発表要旨

☆5.今後の予定         




◇1.当研究会の趣旨

  近年グローバル化という言葉が頻繁に使われるようになったが、情報が瞬時に世界中に行き渡り、 共通の基盤に立って考え行動できるとしてこれを歓迎する人々がいる一方で、 グローバル化とは固有の文化を圧殺するもので、名前を変えた植民地主義だとする立場もある。 いずれにせよ、このような現象は昨今に始まるものではなく古代から存在したので、 その正確な理解なくしては今日のグローバル化の実体を把握することも、 それを正しく導くこともできないであろう。世界を一つにしようとする志向が働くとき、 政治・経済・社会の一大変動が引き起こされるが、本研究会ではテーマを絞って、 言語がどのように変質し、精神活動がどのような新たな展開を遂げ、 どのような文学・芸術が生み出されるかを考察する。

◇2.参加メンバーとそれぞれの課題


      それぞれの課題の内容については、こちらのページをごらんください

◇3.活動状況


◎第1回研究会 2002.11.14 12時より13時

  出席者 中務哲郎,高橋宏幸,増田真,西村雅樹,松村朋彦,川上穣.

  話題 研究会発足に当たり事務連絡.第2回研究会の打ち合わせ,ニューズレターの 方針について話し合った.

◎第2回研究会 2002.12.20 13時から16時(仏文研究室)

  出席者 中務哲郎,高橋宏幸,増田真,西村雅樹,松村朋彦,天野恵,池田晋也,マ ーチン・チェシュコ,川島隆, 佐々木茂人,伊藤明子,深尾やよい,山下修一.

 下記の研究報告に続いて質疑応答と討論を行った.

  研究報告

   ・マーチン・チェシュコ:ギリシア喜劇と狂言の比較研究について
   ・増田 真:ルソーの言語論と音楽論における国民性

◇4.第2回研究会の発表要旨


マーチン・チェシュコ:ギリシア喜劇と狂言の比較研究について(発表要旨)

   In my paper I point at some of the thrills but also problems and dangers of a literary comparison between Japanese comedy and Classical Greek comic genres. Even though the cultural contexts are as different as can be, we find plenty of relevant material that shows how pre-modern societies created opportunities for (semi) dramatic performances.
   Spectacle may be seen as an essential element of festivities. Especially religious festivals, rites of passage and harvest celebrations, market days, or fairs - in short, communal events repeated on a regular basis - express their ideology through ritualized performance of all sorts. Such a social context creates a fairly stable framework for the developing dramatic genres. Because of the regularity of such events, the dramatic or semi-dramatic genres performed there must keep an element of conventionality and repetitiveness in order to be instantly recognizable as preserving tradition and securing continuity. Needless to say, such events also attract various popular artists trying to appeal to the crowds. Though we can identify clearly comic elements in ritualized performances, I show how difficult it is to separate them from the other elements (mock cruelty, superstition, religious awe, contests, etc.) and the context within which they appear.
   Literary comedy never abandons this wealth of material from folk culture but reduces its ambiguity and shapes it at will. Comparison of folk motifs and especially the way they were incorporated into literary genres, promises most exciting results if carried out systematically.
   I also discuss the spectacle implicit in festive processions and compare the Greek wagons ('hamaxai') and Japanese festival floats turned into a mobile stage on which short sketches are performed ('hikiyama'). I also draw attention to the similarities in primitive comic material connected with regular communal events ? namely, disguise tricks performed at a market place (Megarian scheme in Aristophanes’ 'Acharnians', and a Kyogen play 'Wakame').

増田 真:ルソーの言語論と音楽論における国民性(発表要旨)

 
   ルソーが音楽家として活動し、オペレッタや音楽論を残したことはよく知られてい るが、その音楽論は彼の言語論や政治思想と密接に結びついており、そこでは国民ご との個別性が重要な役割を果たしている。
 言語に関する言及はルソーの初期の作品から見られ、ブフォン論争の最中に書かれ た『フランス音楽についての手紙』(1753)においては、イタリア語の音楽性が賞揚 されているのに対して、フランス語は抑揚が乏しく音楽には適さない言語と断定され ている。その後執筆された『言語起源論』(1760年頃?)では、言語の起源や原初的言 語の性質などが想定され、それによれば、原初的な言語は母音や抑揚が豊かで、感情 を表現するのに適していた。そのような性質は、明晰性と洗練を兼ね備えた言語とし て作り上げられた近代フランス語とは反対のものであり、ルソーの言語論は当時ヨー ロッパの国際語となっていたフランス語に対する批判でもあった。
   他方、『言語起源論』において、言語が起源から多様なものだったとされるが、そ れは自然法学派の「自然の社交性」やそれに結びついた「人類の一般社会」という概 念の論駁の一環でもある。また、ルソーが感情を言語と音楽の起源として想定してい るのは、肉体的欲求が言語の起源であると主張する百科全書派との論争の帰結であり 、道徳的感情を人間の本性とする彼の人間論や政治思想と一致するものである。その ような立場から、言語と音楽はもともと多様なものであるともに、人間の道徳的感情 の表出を起源とするものであり、古代において法が歌われていたのはその証拠とされる。
   そしてルソーによれば、音楽による芸術的快楽は感覚によるものではなく、「精神 的な作用」によるものであり、言語と同じように、音楽も各国民に固有のものである 。言い換えれば、ルソーの言語論と音楽論においては、人間としての普遍性は個別性 を通して実現されることになり、ルソーの政治思想において、各国民の個性や愛国心 を強める制度や儀式が重視されるのもそのような理由からである。その一例として、 ルソーの政治思想の実践的レベルにおいては、祝祭が重視される。彼の推奨する祝祭 は、民衆自身が主役と観客を兼ね、国民の一体感と愛国心を強化する役割を負ってお り、古代における歌われた法と同じように、芸術的快楽と政治的・道徳的義務の融合 を体現するものでもある。
   このように、ルソーの言語論・音楽論は、フランス音楽批判を出発点としているが 、彼の政治思想との合致をめざして練り上げられたもので、彼の文体や芸術論全般と も密接に関連している。さらに、ルソーのこのような側面はフランス革命期の祝祭や 弁論術にも影響を与えており、その意味では、ルソーのフランス語批判はフランス語 に新たな活力を与えたとも言える。

◇5.今後の予定


 ◎第3回研究会
  2月18日(火)2時から4時半
  於:東館4階会議室(北東角)
  研究発表:
   川島 隆:カフカの中国・中国人像
   天野 恵:ルネサンス期北イタリアの文人とトスカナ語

  (終了しました。詳細は、次号で報告いたします。)