古代世界における学派・宗派の成立と<異>意識の形成 VAADA

Virtual Ancient Arguments on Difference and Affinity

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趣旨と目的

古代世界において成立してきた哲学の諸学派(school)や宗教的各派(sect)の初期の 成立史を文献資料に基づき検証する。諸言説の聖典・経典化のプロセス、伝統の形 成過程、正統説と異端説の分岐、他者の見解の取り込みによる統合などといった観 点から、テキストを読解し、その作業を通じて、学派・宗派の成立−これは同時に <学>や<教>それ自体の成立の歴史でもある−のダイナミズムと、そこに見出さ れる<異>意識の構造を明らかすることを本研究会はその目的とする。当面は、主 としてインド・チベット・中国というアジア世界を対象領域とするが、「学派の成 立」を世界史的に考察する上で欠かすことのできないギリシア世界については、学 外から専門研究者の参加をえた。当面の研究対象としては、doxography(「諸学説 集成」)の性格をもついくつかのテキストを選び、そこに働く「他者の見解」や 「異端説」への意識・観念をまず分析することから始めたい。

 具体的な研究会 として予定されているのは、以下のものである。

1)ハリバドラ(8世紀ジャイナ教の思想家)の『六派哲学集成』およびその注釈テキスト類を対象とした共同研究会。 オンラインによる電子版校訂テキストとその訳注 の作成と公開をめざす。

2)チベット宗義書研究の研究会。従来、御牧教授(仏教学)によってすすめられてきた「チベット宗義書研究」の蓄積を基に、その成果の出版をめざす。

3)「古代世界における学派・宗派の成立と<異>意識の形成」をテーマとする個別研究発表の場としての「学派研究会」。2ヶ月に一度の開催を予定する。

 研究会の成果については、順次 Newsletter 報告書 を通じて公開していきたい。

 本研究会の中心的メンバー は、インド世界を対象とする研究者であるが、古来「多言語・多宗教・多民族」の世界であったインド世界の研究者が、「グローバル化」をテーマとする本COEプログラムに積極的に関わるのは当然のことであろう。今日のグローバル化が、ともすれば越境・混成的な側面を持つものとして見られることが多いとするならば、古代インド世界の場合にも、確かにそのような現象(<普遍>の地域・土着化)を見出すことは容易であるのだが、そこでは、一方で必ず「<特殊>の正統・普遍への融合」=サンスクリット化の運動が見られたことはよく知られているところである。土着化とサンスクリット化という、この両方向の運動を、「学」の成立のプロセスの中にも探り、その具体的な姿を明らかにしようとするのが、本研究会の目指すところである。単なる文化相対主義は自文化中心主義へと容易に転換する。また、強大な力を笠に着た普遍主義の押し付けは帝国の再来でしかない。真の「グローバル化」は、正反対のベクトルをもった運動の絶えざる往復運動の場においてはじめて可能となるに違いない。本研究会は、このような多元的文化の未来の可能性についても検討の対象としたい。

 なお、本研究会は、人文学分野におけるオンライン共同研究会 の試みとして、その第一段階では、現行のネットワークシステムでも可能な、メーリングリストとホームページによる共同研究会を実施し、研究会を重ねる過程で、順次、次の段階への技術的発展、つまりXML文書によるファイルの作成、原文テキストの作成、訳注の制作、さらにWEB利用による議論・提案・修正などの複数意見のテキストへのタグ付き書き込み、それらをネットワーク上で同時に実現するシステムの試験的実施・改良・構築をも目指すこととする。