科学研究の具体的事例に即して、科学的知識の成り立ちを考える.
前半は、二十世紀における科学哲学の代表的アプローチを紹介し,検討する.
1. 科学と哲学—二つの分野はどのように関係するか?
2. 自然科学の方法—科学の方法は一枚岩か?
3. 反証主義—演繹論理だけを使う反証主義は妥当か?
4. 科学的説明—説明のエッセンスを一義的に取り出せるか?
5. 理論、観察、測定—理論と観察の絡み合いを考える
6. 仮説の形成と確証—いかにして仮説が生まれ、知識となるか?
7. 科学理論の変遷—クーンのパラダイム論を検討する
8. 科学の目的—科学の認識的側面と実用的側面
以上の各項目にわたり、それぞれ1週から3週を費やして検討していく。
テキスト、内井『科学哲学入門』世界思想社、を使用
科学とは何かという問題を,歴史的視点から考察する. 前半は,近代西欧科学が誕生した17世紀科学革命の核心だった力学の誕生について,古代からの運動論の展開を辿って検討する.
1:アリストテレスの運動論
2:中世の運動論
3:ルネサンスの運動論
4:ガリレオの数学的運動論
5:近代力学の誕生と科学革命
後半は,20世紀後半の科学技術について,コンピュータの誕生・発展を, その基本構造に触れつつ考察する.
1:デジタル・コンピュータの誕生
2:コンピュータの産業化
3:ハードウェアとソフトウェア
4:Personal Computer
5:Internet
論理学は哲学的分析には不可欠である. 命題論理と述語論について, 基本的な訓練をしながら,モデル理論(真偽や意味を問題にする)と証明論(厳密な公理系のなかでの証明を問題にする)をマスターし,二つをつなぐ「完全性定理」までを目標とする.
テキスト:内井惣七『真理・説明・計算』(ミネルヴァ)
テキストとしては,科学技術史に関するテキストのシリーズである Control of Nature から,核兵器の開発と科学者の関係を扱ったものを用いる.第二次大戦から冷戦期においては,科学と国家の関係が新たな段階に入るとともに,20世紀後半の科学技術を特徴づける科学の巨大化が始まったが,その発端は核兵 器開発であった.
テキストは,けっして難解ではなく,平易な英語で書かれているが,ただ意味 が取れればよいというのではなく,きちんと構文を踏まえた読解力を養成することを目指す.
Laurence Badash : Scientists and the Development of Nuclear Weapons, Humanities Press, 1995.
科学の倫理, 科学者の倫理をどう考えるべきか. この問題にもすでにかなり長い歴史があるが,必ずしも十分には論じられていない. 既存の見解を批判しつつ, 次のような筋道で論じていきたい.
1. 科学における先取権
2. 科学者内部での倫理
3. 職業としての科学者に何が求められるか
4. 科学的知識の価値はどこから生まれるか
5. 科学者の社会的責任、歴史的事例と責任の根拠を考える
(参考)内井惣七『科学の倫理学』丸善
古典力学は近代物理学,さらには近代科学のモデルとみなされているが,その誕生は17世紀科学革命の核心であった.ニュートンの『プリンキピア』に よって誕生したと言えるが,現代の我々が学ぶような古典力学の理論体系が成立したのは18世紀中頃以降のことだった.すなわち問題を解くに際して 座標系を設定し,各座標に関する運動方程式を立て,積分によって運動の軌道を求めたり,運動量や運動エネルギーといった力学的保存量の保存則から出発 して問題を解くという方法が確立され,それらの間の関係が明らかにされたのである.講義では,18世紀を代表する数理科学者であるレオンハルト・オイラーの力学論文(仏語)をテキストとしつつ,18世紀における古典力学の解析化と体 系化について検討する.
この講義の主眼は, 主として前近代の中国における科学的な思考や創造性を考察することにかかわるものであり, それらを推進したり, 抑止したりした知的および社会的要因について考えることにもかかわっている. 言語や時間・空間などについての基本的概念に中国の科学文化の特徴を探り, 次いで中国における自然の法則観について見てから, 科学の社会的次元にかかわる問題を考察する. こうした試みを通じて, 中国においては, なぜ近代科学のレヴェルにまで「科学」が到達し得なかったのかという問題を考察したい.
1) 中国科学の特質
2) 中国の自然哲学と「科学」
3) 中国の天文学と暦法
4) 中国の数学
5) 中国医学の特徴
6) 漢字文化と中国科学
7) 時空の概念
8) 対象と相関:事物の数的類型化
9) 中国科学と定量化の問題
10) 社会の制度と科学技術
11) 中国における「自然の法則」
12) 自然へのアプローチ:その中国的展開
13) 中国技術の世界
14) 「科学革命」期の科学の受容
15) 近代化と科学技術: 導入知識を在来科学の型模に
Toby E. Huff, The Rise of Early Modern Science, Cambridge UP, 1993
講義の性格上, 数回にわたって「科学革命」についても論考する.
本講義では, 「科学とは何か」という科学哲学の基本問題を, 科学と非科学 の間の区別をいかにしてつけるか,という境界設定の観点から論じる. 具体的には, 反証主義など代表的な境界設定基準を概観したのち,疑似科学が社会問題化した現代においてそれらの境界設定基準がどの程度有効か, 事例に即して考察する.
伊勢田哲治『疑似科学と科学の哲学』名大出版会
物理学に即した時空の哲学をやるためには, 是非読んでおかなければならない文献が多数ある.ニュートンから現代に至るまでの重要な文献をピックアップし, 相対性理論に対する理解も深めながら, 読んでいく. 取り上げる題材は,ニュートン, ニュートン-ライプニッツ論争, オイラー, マッハのニュートン批判, ポアンカレ, アインシュタインなど.
コンピュータの誕生は20世紀後半の科学技術の発展において最も重要なできごとだった.現代社会は,インターネットに代表されるように,高度情報化社会と呼ばれるが,それを支えているのがコンピュータである.また他のすべての科学技術分野においても,遺伝子情報解析に見られるように,コンピュー タが大きな役割を果たしている.
演習では,最初にコンピュータの誕生から発展を,邦文文献を用いて概括し,現代のコンピュータの基本構造を最初に提示したジョン・フォン・ノイマンの 論文(”The First Draft of a Report on the EDVAC”)を読む.
デイヴィッド・ヒュームの『人間知性研究』を読み、ヒュームの知識論、因果論、宗教論、懐疑論について研究する。 David Hume, An Enquiry Concerning Human Understanding, ed. by Tom L. eauchamp, Oxford University Press.
『時間と記憶:哲学と心理学における問題』(2001)の中から幾つかの論文を読んで検討したい。記憶という概念を解明し、記憶において時間がどのように現れ、どのような役割を果たしているかという問題を扱いたい。これは、心理学の哲学にとってのみならず、時間の哲学や心の哲学に関しても基本的な問題である。 Cristoph Hoerl and Teresa McCormack (eds.), Time and Memory: Issues in Philosophy and Psychology, Clarendon Press, 2001.
発表演習, 大学院生必修. 研究発表を行うのは当然として, 出席が足りない場合には単位を与えないことがあるので注意.
他人の発表に対する質問や議論にも積極的に参加されたい. また, 漫然とした発表ではなく, わかりやすい, 手際のよい発表を心がけること.