二十世紀における科学哲学の発展を確認した後,科学哲学と言語哲学,心の哲学,社会哲学との関係について考察する.
前半は、二十世紀における科学哲学の代表的アプローチを紹介し,検討する.
1. 論理実証主義
2. 反証主義
3. 論理学の発展
4. クーンのパラダイム論
5. クーン以降の科学哲学
6. 現代科学と自然哲学
後半は,科学哲学と分析哲学諸分野との関係について考察する.
1. 科学哲学と言語哲学(クワイン, パトナムなど)
2. 科学哲学と心の哲学(チャーチランド, キムなど)
3. 科学哲学と社会哲学(認識の共同性など)
科学とは何かという問題を,歴史的視点から考察する.
前半は,20世紀の科学について,生物学と物理学の革命を中心に論じる.
1.生物学の革命
1.1 進化論 ダーウィンの進化論/進化論の統合
1.2 遺伝学 分子生物学の誕生と発展
2.物理学の革命
2.1 相対性理論 特殊相対性理論/一般相対性理論
2.2 量子力学
後半は,近代西欧科学が誕生した17世紀科学革命の核心である力学の誕生について,古代から17世紀までの天文学と運動論の展開を辿って検討する.
1.天文学
1.1 古代の天文学―地球中心説
1.2 近代の天文学―太陽中心説
2.運動論
2.1 古代の運動論
2.2 中世とルネサンスの運動論
2.3 ガリレオの運動論
3.「科学革命」 ニュートンの力学
命題論理,述語論理,チューリング・ゲーデルの定理という,記号論理学の標準的な基礎知識を身につけることを目的とする.
命題論理と述語論理について,基本的な訓練をしながらモデル理論と証明論とをマスターし,二つをつなぐ完全性証明までを目標とする.その後,関連した話題として有限オートマトン,チューリング・マシン,決定不可能な問題なども論じる.なるべく教科書に沿って講義を行うが,標準的なモデル理論より理解しやすいとされる,述語論理のゲーム意味論,論理学史,などの話題を適宜補足する.また,各項目の基本的な説明を行った後に,宿題を出題し数名の受講生に回答してもらうという形式の演習を適宜行う.
テキスト:内井惣七『真理・説明・計算』(ミネルヴァ)
量子力学は,相対性理論とともに,20世紀物理学革命を担うものであり,そこで主張された実在性や因果性をめぐる議論は,物理学の哲学さらには科学哲学に中心的問題をこれまで提供してきている.
授業では,量子力学の創始者の一人である,ハイゼンベルクが不確定性定理に始めて言及したことで知られる論文 “Uber den anschaulichen Inhalt der quantentheoretischen Kinematik und Mechanik”を読む.
テキスト:Gesammelte Werke, Ser. A, Wissenschaftliche Originalarbeiten, Pt. 1, Berlin, 1985.
参考文献:『世界の名著66 現代の世界II』,中央公論社.
キャシディ『不確定性―ハイゼンベルクの科学と生涯』,白揚社,1998.
20世紀後半に大きな発展を遂げたデジタル・コンピュータの起源は1940年代に遡る.授業では,その理論的起源といわれるアラン・チューリングの論文”On Computable Numbers, with an Application to the Entscheinungsproblem”(1936)を読む.この論文は,チューリング・マシンの概念によって,その後のコンピュータ理論の誕生にとって決定的な影響を与えたと言われる.
テキスト:Alan Turing, Completed Works, Vol. 3, Mathematical logic,
edited by R.O. Gandy and C.E.M. Yates, Amsterdam, 2001.
B. Jack Copeland, ed., The Essential Turing, Oxford, 2004.
参考文献:星野力『甦るチューリング』,NTT出版,2002.
人間に関する諸科学(認知科学,神経科学,進化生物学など)の発展により,人間を「物理的システム」として理解できる側面が次第に増えてきている.そしてそれと共に,科学が描く「科学的人間観」と,われわれが日常的に抱いている「常識的人間観」との間に,大きな隔たりが生じつつある.その意味で,現代人は,統一的・整合的な自己理解を(人類史上初めて?)失っているように思える.この授業では,現代の科学が人間についてどのような知見を示しているかを紹介し,「人間とは何か」を考える手がかりとしたい.取り扱うテーマは,次の通りである.
(1) 潜在的認知過程
(2) 人工ニューラル・ネットワーク
(3) 利己的な遺伝子と利他的な行動
テキスト・参考文献:テキストは使用しない.次に挙げる参考書をできるだけ読んでほしい.
リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)
下條信輔『サブリミナル・マインド』(中公新書)
ポール・チャーチランド『認知哲学』(産業図書)
内井惣七『進化論と倫理』(世界思想社)
V. S. ラマチャンドラン『脳の中の幽霊』(角川書店)
2005‐06年の特殊講義「形式化の問題」(前半)では,ドイツの数学者D.ヒルベルトの数学の基礎への関わりが,そのキャリヤ初期からのものであることを,彼の数学ノートを元に解明した.本特殊講義では,この継続として,最近までヒルベルトの数学の基礎への関わりの空白期間と見做さ
れていた20世紀初頭の「物理学と解析学」の時代に焦点を当てる.講義形態としては,数学ノートの同時代のノートを参照しつつ,この時代の唯一の研究書である,Leo. Corry の “David Hilbert and the Axiomatization of Physics” を輪講形式で読む.
テキスト: Leo Corry, “David Hilbert and the Axiomatization of Physics”
ヒルベルト数学ノートの原本も読むので受講者はドイツ語が読めることが望ましい.ただし,辞書や翻訳ソフトを使って十分時間をかければ大体理解できるという程度で十分である.また,背景知識として,K.ゲーデル「不完全性定理」(岩波文庫)の林・八杉による「解説」の歴史部分を読んでおいて欲しい.
日本人と近代的合理性の関係を考えるとき「論理」と「論理学」の問題を避けて通ることはできない.2006年度の特殊講義「形式化の問題」(後半)では,ソフトウェア工学における合理性と,日本的生産法,経営法における合理性の対比を試みたが,本特殊講義では,同じ問題意識のもとに,明治期日本における論理学受容の歴史を追う.
具体的には,船山信一著「明治論理学史研究」を導きの糸とし,政治家尾崎行雄(咢堂)が著した「演繹推理学」などの明治期の論理学の教科書,手引書,西周と福沢諭吉の「論争」などを読む.その主な目標は,「明治前期においては,論理学(形式論理学)は主に近代的政治の技法として受容された」という船山の主張の検証である.
後期のみの講義ではあるが,もし時間がゆるせば,論理をビジネスの道具として捉える現代の「ロジカルシンキング・ブーム」,西田・田辺を含む明治後期以後の哲学者たちによる認識論的論理学の研究など,との対比も試みたい.講義形式は,林の講義と輪講の組み合わせを予定しているが,講義と輪講の比率などを含め,講義形式の詳細は受講者との相談の上で決める.
テキスト:船山信一著「明治論理学史研究」(輪講にはコピーを用いる).
国会図書館近代デジタルアーカイブ(WEB上で公開されている)から上述の尾崎の教科書等.
パーソナル・コンピュータを端末としたネットワークの利用という,今日もっともひろく普及しているコンピューティングのスタイルはどのようにしてできあがってきたのか.本講義では,このテーマに沿って,社会的な技術システムが生まれる過程を記述するための歴史研究の方法について,関連す
る歴史資料を読み解きながら解説する.
具体的には,ゼロックス社パロアルト研究所で1970年代から80年代にかけて開発された分散型コンピュータ・ネットワークの概念についてと,米国国防総省が先導して構築したARPAネットがネットワーク間の相互接続の幹線となって,インターネットが形成されていった過程を扱う.受講生は,必ずしもコンピューティングに詳しくなくてもよいが,技術に関わる歴史研究の方法論に興味があることが望ましい.また,講義では英語文献を多用する.
テキスト:喜多千草『起源のインターネット』(青土社,2005)
参考文献: Abbate, Janet Inventing the Internet, The MIT Press, 1999等,適宜指示.
1920年代から1930年代に掛けて誕生し発展した集団遺伝学は,統計学を遺伝学に適用することを通じて,遺伝学と進化論との融合,さらには進化論の統合を導いたのだった.授業では,その過程で中心的な役割を果たし,また統計学者として知られるフィッシャーの『自然選択の遺伝理論』
(1930)を読む.(その準備として,最初にProvineの集団遺伝学の誕生に関する研究を読みます)
テキスト:W. B. Provine: The Origins of Theoretical Population Genetics, Chicago, 1971/2001.
R. A. Fisher, The Genetical Theory of Natural Selection, Oxford, 1999.
デイヴィッド・ヒュームの主著とされる『人間本性論』を読み,一八世紀の哲学および科学思想について研究する.
テキスト:David Hume, A Treatise of Human Nature, eds. by D. F. Norton and M. J. Norton, Oxford University Press, 2000.
参考文献:中才敏郎編『ヒューム読本』(法政大学出版局)など.
備考:テキストは上記のノートン版以外でも可。各自で準備されたい.
発表演習,四回生必修.卒論作成に向けて,プランや途中経過などの研究発表をしてもらいます.欠席が多い学生には、発表しただけでは単位を与えないことがあるので留意してください.
曜日 | 1限 | 2限 | 3限 | 4限 | 5限 |
月 | 林 特講
ヒルベルト(前) 明治論理学史(後) |
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火 |
伊藤 科学史入門 |
林 基礎演習 I 論理学 |
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水 |
伊藤 演習 集団遺伝学の誕生 |
伊藤 特講 量子力学の誕生 |
中才 演習 ヒューム人間本性論 |
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木 | 喜多 特講 ネットワーク 開発史 |
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金 |
伊藤 特講コンピュータ理論の起源 |
伊藤 科哲史セミナー |
中山 講義 科学哲学入門 |
集中 丹治 特殊講義 「人間はどこまで物理的システムとして理解できるか」