21世紀COEプログラム

多元的世界における寛容性についての研究

京都大学大学院文学研究科
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■第18回研究会レジュメ

《報告1》

 2006年5月20日(土)
於:京都大学文学部新館
 

キリスト教思想研究と寛容性

 芦名 定道

【要旨】

<これまでの定例研究会での発表(キリスト教学関係)>

省略

<まとめ>

(1)宗教的多元性・東アジア



A1:宗教的寛容論(歴史的経緯と概念分析)
A2:宗教的多元性 → 「宗教の神学」
B1:対立・寛容の具体的な場面
    ハンセン病、平和・正義、死者儀礼、家族
B2:地域・伝統
    無教会、日韓、韓国、中国、中東(イスラエル・ブーバー)、シリア

(2)総括に向けて

方向性:「B → A」
    東アジアの多様性(日本、中国、韓国) → 宗教的多元性と公共性

COEとの関連で実施したこれまでの調査
    日本と韓国のキリスト教における死者儀礼
    中国と韓国のキリスト教と公共性(公共圏の形成)

<東アジアにおける宗教的多元性と公共性>

『宗教と公共性』の序論「宗教的寛容から公共性へ」についての補足

 中国(上海)と韓国(ソウル)における大規模教会(会員数1万人を越えるメガ・チャーチを中心に)の活動について実態調査を行い、いわば下からの公共性の形成と言うべき動きが実際にどのように展開しているかを明らかにする。
 「多元的世界における寛容性についての研究」研究班では、これまで現代世界の多様な多元的局面における諸問題を寛容性という観点から思想史的また社会学的な方法論によって検討を行ってきたが、今回大規模教会の実態調査をぜひ実施する理由は、以下の通りである。会員数1万人を越える大規模教会では、日曜日の礼拝を中心に会員の日常的生活の全体(相互扶助的な活動、文化活動、地域貢献などを含む)をカバーする活動が行われているが、それは、その教会内部に親密圏(家族を基盤とした)から公共圏に及ぶ公共的な場を形成する共に、教会外部の諸団体・地域・行政との緊密な関係を構築するに至っている。こうした大規模教会の活動は、西欧近代において確立された政教分離を制度的な基盤としつつも、公と私の単純な二分法の枠内には収まりきれない、多元的世界における宗教の新しい動向を示しており、多元性の状況における公共性という問題を理論的に検討する際の重要な手がかりになることが期待できる。

1.宗教的多元性と寛容 → 公共性:寛容が現実化する場

2.キリスト教と公共性
   キリスト教における隣人愛の射程:共同体内部での助け合い → 共同体の外部へ
                      キリスト教会内の公共性      教会外の公共性
                      個人・家族から「神の家族」へ
   東アジアにおけるキリスト教の歴史から
      近代化への積極的寄与、教育・医療などにおける貢献
3.公共性をめぐって
    西欧近代の政教分離システムにおける「私/公」の二分法とその限界
                             「善/正義」「格律/倫理性」
    中間的なものとしての公共性(市民的共同体)
      下からの公共性の実現に対するキリスト教の動向

                         公共性


                          教会


                     私          公

        宗教的多元性と寛容の議論を進展させるような新しい公共性論へ

4.作業仮説
   教会と公共性との関わりは、次のファクターによって規定される。
     ・国家の宗教政策、政教分離制度の実態  
     ・教会の規模
     ・教派的背景
   ここから、日韓中におけるキリスト教の多様性を分析する。

1.上海での調査からソウルでの調査へ
(1)上海での調査内容

1.国際礼拝堂・沈承恩牧師
  上海市基督教景林堂・余江牧師
  復旦大学哲学系・孫向晨副教授

2.概要
 中国のキリスト教に関して、それぞれ異なる視点からの説明を聴くことができ、有意義であった。沈牧師と余牧師からは、中国キリスト教会の牧師という同一の立場に立ちつつも、教会での位置や年齢などの相違による微妙な違いが感じられた(現在のキリスト教徒の数などについての差)。沈牧師の話には、中国キリスト教全体についてのマクロな視点(今後の課題として、神学思想の形成や海外のキリスト教との関係構築が挙げられるなど)がみられる。中国キリスト教会(三自愛国教会)内でのポジションによるものと思われる。それに対して、余牧師の場合は、自分が牧会する教会の独自な活動への意欲が感じられた。
 二人の牧師が、基本的には中国におけるキリスト教のいっそうの発展を強く意識しているのに対して、復旦大学の孫氏の場合は、より客観的な視点に立っている。とくに、諸宗教との関係を含めて、キリスト教の発展の可能性についてはより冷静である。
 こうした微妙な差はあるが、国家の宗教政策という枠組みの存在やキリスト教内外の主体的関係構築の限界という現実の中で、キリスト教が着実に浸透しつつある状況はよくわかった。

3.教会の概要
 ・歴史、規模、年齢構成
 ・礼拝以外の諸活動の内容
 ・教会内のグループと活動(日本で言えば、教会学校、聖歌隊、青年会、婦人会、壮年会など)
 今回訪問した上海の教会は、1980年代以降の国家の宗教政策の変化の中で苦労して教会を再建し、現在は着実に規模を拡大しつつある。いずれも1万人前後の信徒が所属し、年に、300名から500名が受洗する。教会内のグループ活動も盛んである。年齢構成や性別については、中高年の女性が多い。

4.教会内の信仰者の交わり、教会内における信者の相互の支え合いに関して
 老人に対する特別のプログラム(老人会、敬老礼拝)などが存在する。地域割りの活動も存在し、教会員の消息情報の収集や訪問などが行われている。しかし、活動は経済面などに踏み込んだ助け合いにまで展開していない。また、活動は基本的に各個教会内で完結しているようである。地域における牧師同士のつながり(信徒情報の交換や講壇交換を含めて)は存在するが、信徒レベルでのつながりはほとんどみられない。予算面でも、各個教会は自立している。また、教会外への組織的で積極的な伝道も行われていない。
 活動を内部において完結させるのは、国家の宗教政策の影響か(信徒レベルでの各個教会を超えた交流の危険視?)、あるいは教会側の自主規制か。 

5.教会外の諸団体や地域共同体との関わり
 他宗教との関係はほとんど問題化していない、意識されていない。また、大学など外部団体との関わりも、個人レベル以外には存在しない。神学校と復旦大学との関わりも、個々人のレベル。

6.教会内あるいは教会外の公共性に関して
 教会内と教会外との有機的なつながり存在しない。また教会内でも、公共性は、経済面を含めた全体的なものとしてではなく、信仰面の関わりに限定されている。一方におけるキリスト教の発展と、他方における伝統的なキリスト教会のあり方(隣人愛・社会実践や伝道活動)とのずれ、という二つの面が存在し、それが今後どのような展開を生むことになるかに注目する必要がある。政教分離の理想形態? いずれにせよ、中国キリスト教の最大の問題は、国家と教会の関係である。

7.大学
 キリスト教研究は想像以上に盛んである。研究は、基本的には、西洋思想の研究の一環としてなされ、中国キリスト教史の研究もなされつつある。研究者の海外留学についても、日本と同様の現状(アジアとの関わりは希薄)。中国キリスト教思想の主体的な形成の場は、どこになるのか。

(2)ソウルでの調査
1.中国とは異なる状況下におけるキリスト教
2.教会内あるいは教会外における公共性の積極的な構築が予想される → 実態は
3.国家あるいは民族との関わり、あるいは他の宗教との関係
対話、対立、無関心

(あしな さだみち・京都大学大学院文学研究科キリスト教学助教授)

               

                                                    


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