21世紀COEプログラム

多元的世界における寛容性についての研究

京都大学大学院文学研究科
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■第19回研究会レジュメ

《報告3》

 2006年7月22日(土)
於:京都大学文学部新館

「地域の危機」としてのオウム事件

野中 亮

【要旨】

 年度末の出版に向け、問題意識の再確認と今回執筆予定の論点のラフスケッチを報告した。昨今、注目されるようになった「地域のセキュリティ」問題の日本での嚆矢としてオウム問題を位置づけ、「セキュリティ」という言葉が内包する非寛容性の問題を検討する。

1. ゲーテッド・コミュニティの事例から何を読み取るのか?
ゲーテッド・コミュニティとは
 周りを塀などで囲い、監視カメラやレーザーセンサーの設置、人や車の出入りの確認、私設警備員による巡回等、  徹底したセキュリティ体制を導入したコミュニティ。

ゲート=社会的・心理的隔壁の具現化
 マイノリティ問題や所得格差問題をはらむアメリカ社会において、ゲートは居住空間を隔壁する防衛線であると同時  に、所得と人種の境界線でもある。
 

 差別や区別がなぜ「防御」を必要とする不安や恐怖の形で現象するのか? また、「どんな手(過激・過剰な手段)を つかってでもそれを排除する」という行動の起点はなにか。


2. 不安の原動力
「国体護持」から「家族の崩壊」へ、そして「地域の危機」へ
・従来の新宗教を巡る言説
 戦前は「国体」を、高度成長期には「家族(主義)」を脅かすものとして批判
・オウム問題が脅かすもの
 これまでの宗教批判の論点を継承しつつ、「地域」という新たなキーワードが導入される
    ↓
 不安定なもの、崩壊しつつあるものへの不安の具現化

なぜオウム?
・この不安は、常に具現化の対象をあさっている(具体的な主体はマス・メディア)
・たいていは社会的弱者やマイノリティに投影
・オウム=マイノリティ、攻撃性、価値観の隔絶性、「顔」の存在等、具現化の対象要件を網羅。


3. 排撃と防御
・攻撃の対象としての反社会性
 無関心を装えない。また、オウムには「顔」があるためターゲットを囲い込んで確定できる。
 オウムのような適切な素材がない場合には犯罪者やマイノリティが適宜利用される(「治安の悪化は外国人犯罪の増加のせい」)が、彼らには「顔」がないため、攻撃ではなく防御という対応策がとられる。
・攻撃の方法、防御の方法
 素性の知れた相手であれば効果的な攻撃が可能だが、手の内を予測できない相手であればさまざまな方法で防御を試みるしかない。また、「顔」のない敵への対抗策の模索はきりがない。
 いきおい、その方法は過剰とならざるをえない。


4. 地域のセキュリティ問題にみる差別と排除の問題
・セキュリティ運動=コミュニティの再構成運動の一種
 もっとも効果的な地域再構成の方法としての「地域の敵」の想定とその排撃運動の実施
・近代市民社会的価値の相対化
 学校や子どもの安全など、説得力のある事案に象徴される「地域の安全」は、外国人や精神障害者、新宗教信者などのマイノリティの「人権」を相対化しつつある
(のなかりょう・大阪樟蔭女子大学人間科学部人間社会学科助教授)

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